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月の砂を用いた蓄熱システムの開発体制と特徴を担当者が語るITmedia Virtual EXPO 2025 冬 講演レポート(2/2 ページ)

» 2025年04月02日 10時00分 公開
[長町基MONOist]
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レゴリス物理蓄熱エネルギーシステムの特徴とは?

 レゴリス物理蓄熱エネルギーシステムは、月面上に大量に存在する砂「レゴリス」全体の熱伝導率および比熱を大きくしたり、蓄熱したレゴリスから熱を取り出したりするシステムだ。

 同システムの特徴は、地球から輸送する少量の樹脂をレゴリスにコーティングし、押し固めることで熱伝導パスを形成し、レゴリスの熱伝導率を向上させる点だ。レゴリスは現地調達のため、ロケット打ち上げ回数やコストの低減に貢献するほか、月面プラントの熱源、建材などに使える。

レゴリスを活用した蓄熱材料 レゴリスを活用した蓄熱材料[クリックで拡大] 出所:レゾナック

 同システムの開発背景には、蓄熱の必要性、レゴリス、ISRU(In situ resource utilization)の3つがあるという。月の赤道上では2週間ごとに昼と夜を繰り返している。月は大気がないため昼間は約110度C、夜間はマイナス170度Cという過酷な環境であり、月面で人類が活動することを想定した場合、昼間は太陽光発電が利用できる。

 しかし、夜間は何らかの熱源が必要となる。この夜間の蓄熱材として同社技術の活用を考えた。レゴリスは月面に堆積している微細な砂であり、パウダーに近いものだ。月では空隙が真空であることから熱が伝わりにくく、発泡スチロールのような性質をもっている。ISRUはその場で入手可能な資源の利用を意味する。つまり、同社では地球から全ての物資を月に輸送するよりも、現地で材料が調達できれば大きなコストダウンとなると考えた。

 「これらの背景をもとに化学メーカーならではのアプローチを考えた」(清水氏)という。同社が考えたアプローチは「レゴリス自体に何か付与できないか」「レゴリスに樹脂をコーティングしレゴリス同士をつなぎ合わせれば熱が通りやすくなるのでは」「宇宙でも使われるポリアミドイミド(PAI)樹脂の量産実績があり、鋳造砂(レジンコーテッドサンド)の量産実績がある」などであり、そこからレゴリスに樹脂をコーティングして固めるという発想が生まれた。

 実際にレゴリスに樹脂をコーティングすることで付与できる熱特性をシミュレーションで算出した結果、少量の樹脂をコーティングすることで熱伝導率が制御可能なことが分かった。また、レゴリスの樹脂コーティング材料を月面に配置した場合の蓄熱効果についてもシミュレーションで算出した結果、熱伝導率の向上により最表面だけでなく、深部にも熱を蓄えられ全体の蓄熱性能が改善することが判明した。

シミュレーションによる樹脂コーティングの効果と実測 シミュレーションによる樹脂コーティングの効果と実測[クリックで拡大] 出所:レゾナック
樹脂コーティング材を月面に配置した場合の蓄熱効果 樹脂コーティング材を月面に配置した場合の蓄熱効果[クリックで拡大] 出所:レゾナック

 この樹脂コーティング材料は、将来的に月面プラントの補助熱源(蓄熱材)や月面建築物の建材(構造材や保温機能)、月面射場と月面道路の舗装材に適用可能だ。一方で、シミュレーション精度の向上や比熱(熱容量)を向上させる樹脂配合設計、月面での製造方法の検討などを技術課題として挙げている。

 この研究開発プロジェクト始動後に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・領域拡大に向けたオープンイノベーション」に関する研究提案の1つとしてレゴリス物理蓄熱エネルギーシステムを募集しており、同社が研究していたレゴリス物理蓄熱エネルギーシステムを提案し「チャレンジ型」枠で2024年2月に採択され、同年4月にJAXAと共同研究を開始した。

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