これまでKIM法の観点を基に、いくつかの作業姿勢例を見ながら負荷度合いを比較してきましたが、それぞれのシチュエーションで身体負荷を低減するにはどのような方策があるでしょうか。
1つには、作業者が作業を行う位置を、腰より高く/肩より低い位置に調整することが挙げられます。できる限り腰を曲げた姿勢を維持しない、できる限り頭上作業や座り込みなどを避ける、というKIM法の指針にならうように、作業環境を改善していくことになります。
もう1つには、助力装置の構造や配置を工夫することで、現環境に存在するギャップを埋めることが挙げられます。ここで、装置構造の工夫(右図、補助アーム付きハンド)が奏功する例を示します。
補助アーム付きハンドを使用することで、姿勢負荷を低くならしつつも、同じ作業成果を得ることができるケースがあります。
先に述べた姿勢比較2と同等以上の作業難度になるわけですが、補助アームの調整シロのおかげで体格差をマージしつつ搬送が可能であり、この時KIM法での評点も低く抑えることができます。
体格に関係なく高負荷となる作業においても、補助アーム付きハンドを用いることで負荷低減を図ることができます。
補助アームによって、体格差に関係なく正立姿勢を崩さずにアプローチできるようになり、負荷低減を実現しつつ同じ作業成果を得ることができます。腰折れや屈伸が不要なこと、同時に頭上作業や腕の伸展も不要なことから、KIM法に照らしても評点は低く抑えられ、理想的な負荷量と評価することができます。
欧州では構内歩車分離のために床レベルが分かれているケースがあり、作業者が立つ床レベルに対してパレット面がそれよりも低いような状況もまま見られます。姿勢負荷を考慮しなければ、ベーシックな助力装置を使って積み付けることはできなくはありませんが、身体にやさしくありません。補助アーム付きハンドを用いればこのような場合でも姿勢負荷を高めずに積み付けが可能です。
ここで紹介した補助アーム付きハンドは一例であって、万能というわけではありません。人間工学に基づいて設計された製品は各社からリリースされていますので、適用環境に合わせて選択してみてください。
作業者の負荷低減を考えた場合、より本質的には、荷重負荷だけでなく姿勢負荷にも注目して、統合的な作業分析を行うことが必要といえます。
今回は、作業者にかかる作業負荷、姿勢負荷を真正面から捉える方法として、より進歩的なドイツのKIM法(KIM-ABP)について触れ、いくつかの作業姿勢を示しながら、より多くの人にとって負荷が少なくなるような作業姿勢と、そのための工夫を例示しました。
人間工学の観点から一歩踏み込んで作業環境を分析し、工程を設計、改善することは、より多くの人が活躍できる快適な作業環境を構築することにつながると考えます。またそれは、その投資をよりコンパクトに、より効果のあるものにするでしょう。
シュマルツ株式会社 ビジネスディベロップメント
小川尚希(おがわ なおき)
工学修士(感性工学)。信州大学大学院にて介護用装着型アシスト装置や高分子人工筋肉をテーマにメカトロ系・人間工学系領域を専攻。これまでオカムラ(旧岡村製作所)、ルネサスエレクトロニクス他経て、2024年から現職。社のスローガン「重力負荷から人々を解放する」に共鳴しながら、FA/省力用機器の国内マーケティング活動やPSF活動を行っている。
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