本稿では、助力装置を導入する際のリスクアセスメントについて、体格の異なる2人による作業デモを通して解説します。
前回は、重量物搬送の省力化に役立つ助力装置の概要や、導入する際に欠かせないリスクアセスメントについて、ドイツで使用されているアセスメント手法「Key Indicator Method」を基に解説しました。
今回は、助力装置を使用した作業デモを通して、作業姿勢や体格差がどのように負荷として評定されるかを考えてみます。
今回、健康で体格が異なる当社社員男女1人ずつを被験者として、当社が製造販売する真空バランサーを操作させました。比較のため、被験者の身長と肩の高さ、腕の長さを図中に記載しました。
規定の高さで作られた作業台の上で持ち上げ作業をする場合を考えます。
作業台上で荷の上げ下げをする場合には、両被験者とも正立姿勢を保てており、肩の高さを超えて腕を動かすことなく、マージンを十分確保しながら作業を遂行できそうです。このような場合には、KIM法では特段重い評点とはならず、身体負荷が低いと評価できます。
比較的高い位置に荷を置く作業をする場合を考えます。
右側の男性被験者には特段無理な姿勢は見られず支障ないように見えます。しかし左側の女性被験者にとっては荷の位置が高いため、荷の把持、搬送はできるものの、腕は肩よりも高い位置で遠くまで伸び、胴体が少しねじれた状態を強いられています。よってやや重い評点につながります。
少し無理な姿勢になるためか、助力装置の操作がやや不安定になる様子も見受けられました。このように作業環境によっては体格差が評点に影響する場合もあります。
床面に近い位置にある荷へのアプローチ、腰を深く曲げて同時に体から遠くへ腕を伸ばすような姿勢は、どちらの被験者に対しても、項目A/Bの両方において、少なくとも評点10点以上、デューティに応じてとても重い評点につながります。
このようなシチュエーションは、作業方向が限定されるパレット積付けや、荷流しのコンベヤーラインが複数並走しているところでの荷さばき作業などに見られます。傾いた上体を支える必要から、肩から腰、太ももにかけてこわばるであろうことは、視覚的にも感じていただけると思います。身体強度がそれほど強くない作業者にしてみれば、さらに過酷な姿勢であるといえます。
経験的に「腰を守るために腰を落として作業する」という方もいらっしゃると思います。この作業では確かに腰を落とした方が楽そうです。このような姿勢変更は、KIM法においてどのように効いてくるでしょうか。姿勢比較4で見てみます。
すでに述べた通り、腰折れの姿勢での荷さばき作業が一定割合含まれる場合は、同じ動作を正立で行った場合に比べ、項目A/Bに対する評点が重くなります。
仮に、腰折れ姿勢を避け膝曲げ姿勢に変更した場合、項目Aの評点は確かに減じます。しかし、KIM法は部位ごとにそれぞれ個別に評価を行いますので、膝曲げに変更した場合には、項目C(膝・足)において重い評点加算されることになります。
つまり、KIM法ではこのような作業は不安定で複雑な姿勢変更を伴うものとして捉えられ、代替姿勢ではマージできず、その負荷度合いが評価の過程で必ずクローズアップされるような作りになっています。
KIM法は、荷役重量だけでなく、作業姿勢やデューティなどの側面も考慮する手法であり、一歩踏み込んで、実際の肉体的な作業負荷を推定/評価することに役立ちます。
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