国際連合が2017年に発表した環境計画資料によれば、グローバルにおけるプラスチックの年間消費量は3億トン(t)で、プラスチックのリサイクル率は14%だ。
また、現在のバイオプラスチックは大半が食料を原料としており、世界的な食糧価格高騰の一因にもなっている他、代替プラスチックや石油由来のプラスチックと比べて、環境性と機能性を両立しているものが少ない。こういった状況を踏まえて、パナソニックHDはkinariを開発した。
kinariは、植物繊維(セルロース)ファイバー(CeF)とプラスチックを組み合わせた高機能素材で、最大で85%のCeFを含有できる。CeFを含有することによって、従来の石油由来プラスチックよりも軽量で高い衝撃強度を有す。
CeFプラスチックであるkinariは、中央の太い繊維が弾性率の向上と軽量化に貢献し、先端の細い繊維が応力時のヒビを最小化し衝撃強度を高める。
パナソニックHD 技術部門 MI本部 生産技術研究所 第一研究部 部長の名木野俊文氏は「当社では、CeFプラスチックとガラスファイバー(GF)プラスチックに対し面衝撃強度試験を行い、強度特性を比べた。その結果、GFプラスチックはほぼ伸びず壊れ、CeFプラスチックは伸びて破壊された。このことから、CeFプラスチックの方が耐衝撃性が高いことが分かった」とコメントした。面衝撃強度試験はプレート状の試験片を半球形の先端を持つストライカーで打ち抜く試験を指す。
さらに、kinariは石油由来のプラスチック用の成形機に対応する他、試作段階に外部機関でのテストにより9カ月で生分解できることが証明されている。同社は現在、つなぎ樹脂も含めて100%生分解可能になるように開発を進めている。
間伐材や廃紙、わら、農業残茎、木製の樽、天然繊維の衣服、海藻、藻、果実の搾りかすなども原料として使える。デザインに関しては、従来のプラスチックと同様に自由に着色でき、原料のテクスチャや色を生かすことも可能。
kinariの製造プロセスは以下の通り。まずパルプなどを事前に粉砕し綿状パルプを作る。綿状パルプに樹脂や添加剤を加えた後、樹脂融液中で解繊、変性、分散の一貫処理を行いペレットを製造する。このように製造プロセスは全工程にわたり水を使用しない全乾式で、湿式の製造プロセスと比べてCO2排出量を削減している。
kinariのリサイクルプロセスの手順は以下の通りだ。まず近赤外線識別により混合プラスチックにおけるkinariを識別し、エアジェットで選別して、粉砕する。次に、洗浄を行い、添加物を加えてペレタイズし、CeFプラスチックペレットとして再生する。「GFプラスチックは近赤外線センサー樹脂選別できないが、CeFプラスチックは対応する。そのため、CeFプラスチックはGFプラスチックよりマテリアルリサイクルしやすい」(名木野氏)。
同社はCES 2025でkinariの活用事例として同素材を用いたランプシェードを披露した。今後は、土壌で分解するkinariを材料に用いて3Dプリンタで出力したリーフオブジェを「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」で展示する。「3Dプリンタ対応タイプのkinariは新たに開発したものだ。従来のkinariは射出成形向けだったため、3Dプリンタのプリンタヘッドから出力できるように改良するのに苦労した」(名木野氏)。
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