ここからは、発電コストを下げるための方策として2つのアプローチを取り上げます。これまで述べてきたように、建設コストを削減すれば発電コストも下がります。建設コストの直接費の中で最も高い割合を占めているのが超伝導コイルシステムです(図3)。そのため、超伝導コイルシステムのコスト削減が最も効果的な方法と言えます。
まず、超伝導コイルシステムの建設コストはその重量に比例していると考えます。図7は、私の所属する核融合科学研究所が運用する大型ヘリカル装置(LHD)[注1]の超伝導コイルシステムです。このシステムは、2種類の超伝導コイル(合計8個)と、電磁力支持構造物で構成されています。
注1 大型ヘリカル装置(LHD)は、自然科学研究機構 核融合科学研究所にある世界最大級のヘリカル型超伝導プラズマ実験装置。本体部は直径約13m、高さ約9m、重量1500トン。1998年の実験開始以来、四半世紀にわたって実験研究を行い、1億2000万℃のプラズマ生成に成功、2300万℃のプラズマを48分間定常維持するなど、多くの成果を挙げてきました。
電磁力支持構造物は、コイルに発生する巨大な電磁力によってコイルが動かないように支持する役割を担っており、全てオーステナイト系ステンレス鋼で製作されています。システム全体の重量は約820トンですが、そのうち約80%(670トン)を電磁力支持構造物が占めています。小型のコイルでは超伝導線の価格が製作コストに大きく影響しますが、核融合のような大型コイルでは、電磁力支持構造物の製作コストが大きな割合を占めることになります。
超伝導コイルシステムの電磁力支持構造物を含めた重量は、コイル全体の蓄積エネルギーにほぼ比例します[参考文献5]。コイル蓄積エネルギーは、教科書で学んだように、(1/2)×(インダクタンス)×(電流)2で表されます。また、核融合炉の場合、コイルの蓄積エネルギーはおおよそ、プラズマの体積とコイルが発生する磁場の二乗に比例します。
プラズマ単位体積当たりの核融合出力は磁場の4乗に比例します。つまり、同じ核融合出力を得るためには、必要なプラズマ体積が磁場の4乗に反比例することになります。磁場を高めれば、核融合炉自体を小型化できるのです。これらの比例関係を数式でまとめたものが図8です。最終的に、超伝導コイルシステムの建設コストは磁場の2乗に反比例することが分かります。
それでは、ここで磁場を2倍にしてみましょう。磁場を2倍にする方法は既に実証が進められており、使用する超伝導体を従来の低温超伝導体であるNb3Snから高温超伝導体YBa2Cu3O7に変更することで可能となります[参考文献6]。
その開発状況については前連載の第3回で解説しましたのでご参照ください。磁場を2倍にすると、図8のように超伝導コイルシステムの建設費は磁場の2乗に反比例するため、理論的には4分の1に減少することになります。これは理想的な考え方で、実際には4分の1まで減少することはありませんが、それでも大幅なコスト削減が見込まれます。同時に、炉全体のサイズも減少し、建屋の建設コストも削減されるため、全体の建設コスト削減に大きく寄与します。
発電コストを下げるための、もう1つの方策を紹介します。ただし、こちらは技術的に実証されたとはいえず、かなり先進的です。発電コストの内、大きな割合を占めるのが交換部品です(図4)。
これが何を意味しているかというと、プラズマを取り巻くブランケットは中性子の強い照射を受け、プラズマの灰であるヘリウムや壁から出てくる不純物を取り除くダイバータは高い熱負荷を受けるため、損耗や機能低下が生じ、これらは定期的な交換が必要だということです。
ブランケットとダイバータの詳しい構造は前連載の第2回における2~3ページ目を参照してください。こういった機器をプラズマ対向機器と呼び、損耗の問題はプラズマと接触している、または近接している金属表面で生じます。
そこで考えられたのが、プラズマ対向機器の金属表面を固体ではなく液体にしてしまうというコンセプトです。また、液体を流動させれば、常に新鮮で一定の状態の表面を維持でき、表面の損耗といった問題が起こりません。核融合炉断面でこれを模式的に表すと、図9のようになります。赤く示した部分の矢印に沿って液体金属が流れます。
液体金属は、遠心力や電磁力を利用して外周側に力をかけ、壁全体を均一に覆うように上から下へと流れます。このコンセプトでは、熱の取り出しの他、トリチウムの増殖も兼ねるため、リチウム元素を含む液体金属が候補となります。具体的には、リチウム、スズ-リチウム合金、FliBe溶融塩(フッ化リチウムとフッ化ベリリウムの混合物から作られる溶融塩)などが挙げられます[参考文献7]。一方、ダイバータ部分のみを液体金属にする場合は、スズやガリウムなどが候補となります[参考文献8]。
以上、2つの核融合発電コスト削減の方策を紹介しましたが、他にもさまざまな技術が提案され、研究されています。これらの革新的な技術が順次導入されていけば、核融合発電は確実に経済的な発電技術となるでしょう。さらに、外部コストが低いという点も考慮すれば、最終的には再生可能エネルギーと核融合エネルギーが優位性を持つと考えられます。(次回へ続く)
自然科学研究機構 核融合科学研究所/総合研究大学院大学 高畑一也(たかはたかずや)
大阪大学工学部原子力工学科卒業。1989年同大学大学院博士課程中退し、文部省核融合科学研究所(当時)に勤務。世界最大級の超伝導プラズマ実験装置、大型ヘリカル装置の設計・建設に従事する。現在は、自然科学研究機構 核融合科学研究所 超伝導・低温工学ユニットおよび総合研究大学院大学 先端学術院 核融合科学コース 教授。また、広報室長を兼任し、核融合のアウトリーチ活動を牽引している。
[1]Daniel Clery, “Giant international fusion project is in big trouble, ITER operations delayed to 2034, with energy-producing reactions expected 5 years,” Science, Vol. 385, Issue 6704 (2024) 10-11
[2]Slavomir Entler, et al., “Approximation of the economy of fusion energy,” Energy, Vol. 152 (2018) 489-497
[3]LAZARD, Levelized Cost of Energy+ 2024 Report
[4]内山洋二,“環境影響評価の方法論,” エネルギー資源, Vol. 21 (2000) 16-20
[5]高畑一也、「核融合用超伝導コイル」 プラズマ核融合学会誌, Vol. 81 (2005) 273-279
[6]David L. Chandler, “Tests show high-temperature superconducting magnets are ready for fusion,” MIT News, March 4, 2024
[7]M.A. Abdou, et al., “On the exploration of innovative concepts for fusion chamber technology,” Fusion Engineering and Design Vol. 54 (2001) 181-247
[8]嶋田道也, 宮澤順一,“小特集 液体だけど水じゃない~次世代ブランケット・ダイバータ研究開発の現状と課題~3.液体ダイバータ,” J. Plasma Fusion Res. Vol. 92 (2016) 119-124
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