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経済的な核融合発電はどうすれば実現できるか?核融合発電 ここがキモ(1)(2/3 ページ)

» 2025年02月06日 08時00分 公開

原型(DEMO)炉の発電コスト試算

 次にDEMO炉の発電コストを見ていきましょう。試算された発電コストの内訳は図4の通りです。

図4 DEMO炉の発電コストの内訳 図4 DEMO炉の発電コストの内訳[参考文献2][クリックで拡大]

 この内訳を見ると、既存の火力発電や原子力発電と大きく異なり、燃料、廃棄物処理、廃止にかかるコストがほとんど無視できるほど小さいことが分かります。一方、減価償却費が57%と際立っています。つまり、今後の技術革新によって建設コストを削減できればその分だけ減価償却費も削減されるので、発電コストも大幅に減少する可能性があります。

 次に大きいのが、部品の交換にかかるコスト(23%)です。真空容器内のプラズマ対向機器(ブランケット、ダイバータなど)は、中性子の照射と熱負荷を受けるため、発電所の寿命(40年)よりも寿命が短くなる(5~10年)ことが想定されています。従って、これらを交換するためのコストが必要となります。それらのコスト削減の可能性についても、3ページ目で述べます。

他の発電方法との発電コストの比較

 核融合発電の発電コストを他の発電方法と比較してみましょう。発電コストの比較には、均等化発電原価(LCOE)を使用します。LCOEは、1MWh(資料によっては1kWh)を発電するために必要なコストであり、プラントの建設コスト、運転、廃棄までの全てのコストをそのプラントの総発電量で割って計算されます。

 欧州のDEMO炉について試算されたLCOEは160ドル/MWhでした[参考文献2]。この試算を2018年に紹介した論文[参考文献2]では、欧州のDEMO炉のLCOEが太陽光発電や風力発電と同程度であると結論付けられています。しかし、その後の再生可能エネルギーの急速な技術進歩により状況が変わっているため、最新のLCOEと比較してみます。参考にしたのは、米国の投資銀行であるLAZARDの2024年のレポートです[参考文献3]。このレポートに記載されているLCOEとDEMO炉のLCOEを比較したグラフが図5です。

図5 さまざまな発電方法の均等化発電原価(LCOE)。数値の単位はドル/MWh、原子力は米国のプラントに限定 図5 さまざまな発電方法の均等化発電原価(LCOE)。数値の単位はドル/MWh、原子力は米国のプラントに限定[参考文献2、3][クリックで拡大]

発電コストに含まれない外部コストの比較

 エネルギー政策では、発電コストに加えて、外部コストと呼ばれるものも評価されています。外部コストとは、人間の健康や生態系、資源への影響を金銭的に評価したものです。これらのコストは、電力の消費者や発電事業者が負担するものではなく、広く社会全体が負担することになります。

 参考文献2には、核融合発電を含むさまざまな発電方法の外部コストが比較されており、図6に示します。なお、この評価には、欧州で広く利用されている「ExternE方法論」が使用されています[参考文献4]。

図6 さまざまな発電方法の外部コスト(数値の単位はドル/MWh)[参考文献2] 図6 さまざまな発電方法の外部コスト(数値の単位はドル/MWh)[参考文献2][クリックで拡大]

 火力発電は、CO2の排出による地球温暖化が環境負荷となるため、外部コストが大きくなります。再生可能エネルギーは外部コストが小さいものの、ゼロではありません。例えば、土地利用による生態系への影響や、風力発電では渡り鳥の衝突や騒音問題が外部コストとして挙げられます。

 一方、再生可能エネルギーよりも外部コストが小さいのが核融合発電です。核融合反応ではCO2を排出せず、反応の副産物であるヘリウムは環境に影響を与えません。放射線リスクも原子力発電に比べて格段に小さく、広大な土地利用も必要ありません。今後、核融合発電のLCOEが減少すれば、この外部コストの低さは大きなメリットとなるはずです。

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