コロナ禍で製造業のマーケティング手法もデジタルシフトが加速した。だが、業界の事情に合わせたデジタルマーケティングを実践できている企業はそう多くない。本連載では「製造業のための正しいデジタルマーケティング知識」を伝えていく。第22回のテーマは問い合わせ分析の事例紹介とその手法解説だ。
受託加工の製造業が成長を遂げる上では顧客の声を正しく捉え、それに基づいた戦略を立案することが欠かせない。ただ、受託加工の特性上、他社より一歩抜きんでている点を明確にすることが非常に難しく、自社の強みや差別化要因を見いだせない企業も多い。
しかし、そのような状況において「問い合わせ分析」は、顧客のニーズや課題を把握し、新たな事業機会を見つける非常に有効な手法である。顧客の実際の声を集めることで、自社の強みが明確になり、新たな方向性が見えてくる。本記事では、問い合わせ分析の重要性と具体的な事例を通じて、どのように企業が事業成長を実現しているのかを紹介する。
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新規事業として製作金物事業を立ち上げた富士産業は、顧客の反応が特に良かった真ちゅう材質に着目した。ただ、ユーザーがより注目していたのは加工素材としての真ちゅうというより、その金色の風合いであった。そこで、ユーザーの求める機能や特徴を再定義し、真ちゅうの溶接やエイジング技術を導入することで、独自性を高めた事例だ。
真ちゅうは使用することで徐々に色合いが変化し、深みを増していく。はじめは明るい黄金色から始まり、あめ色、ダークブラウン、最終的には墨黒へと変わる。この経年変化の過程は、真ちゅう製品に特有の風合いを与え、使用者に自らの手で育てる喜びを提供する。
このエイジングの魅力に着目した同社は、経年劣化を意図的に発生させ、劣化を止め、さらには輝きを取り戻す技術を習得した。これらの取り組みにより、顧客のニーズに応える製品を生み出し、競争力のある製品ラインアップを実現することで、事業の拡大に成功した。
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