繰り返される製造業の品質不正問題。解決の鍵は個人ではなく、組織の在り方、「組織風土」の見直しにあります。本連載では品質不正を防ぐために、組織風土を変革することの重要性と具体的な施策をお伝えしていきます。
経営陣は企業の将来に向けた魅力的なビジョンを語るが、一方で、コミュニケーションの内容は数字に関するものばかり。管理職は、自らの立場やチームを守るために全体最適ではなく自部署最適で判断する。でも現場にとって作業長以上の人間は雲の上の存在だから、判断や指示に従うのは当然だ。
こうした風土が根付いた組織では、日常業務のなかで、ごく普通に「不正」が行われることがあります。
組織風土の観点から、品質不正を防ぐためにできることをお伝えする本連載。今回は、品質不正が起きる組織にある「負のグループダイナミクス」に加え、組織風土を変革するアプローチの全体像を解説していきます。第3回以降は、組織風土変革の重要なファクターとなる「心理的安全性」と「理念浸透」を中心に、現場やコーポレート部門でできる施策についてお伝えする予定です。
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品質不正が起きる組織には、度を超えたプレッシャーをかける慣習や、気軽に相談することができない雰囲気など、さまざまな要素からなる「負のグループダイナミクス」が存在します。グループダイナミクスとは、人の行動や思考は組織から影響を受け、また、組織に対しても影響を与えるという特性を意味します。例えば、以下のような負のグループダイナミクスが存在します。
外部環境の圧力もあって利益を重視し、安全や品質よりも業績に関するコミュニケーションが多くなります。業績が悪化している部署にプレッシャーをかけ、目標達成に対する要望が強くなります。
経営陣からの要望や目標達成への圧力が強くなると、全体最適や長期思考を持つことが難しくなります。自部署や自分の評価を下げないためにも、経営陣の意見に従う形になり、メンバーにさらにプレッシャーがかかる形で指示をします。あるいは、明確に指示しなくても、メンバーが無理せざるを得ない状況に追い込みます。
現場では、作業長以上と直接コミュニケーションを取る機会はほぼなく、たとえ背景や理由を理解していなくても、指示に従うというのが当たり前であることが少なくありません。その結果、自ら思考せずに上司は常に正しいと信じ込む「権威バイアス」や、ルールを守らなくても大丈夫だと思い込む「正常性バイアス」にとらわれます。その結果、思考停止の状態で不正を働いてしまうのです。
組織全体にこうした負のグループダイナミクスが生まれている場合、個人の意識改革や特定層に絞った対策を講じても、ほとんど意味はありません。組織全体へのアプローチを行わない限り、不正は何度でも繰り返されるでしょう。
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