工場スマート化における日欧の製造現場の違いとは何か工場スマート化の今

工場のスマート化において日本と欧州でどんな違いがみられるのか、日本国内で産業領域を担当するSchneider Electric(シュナイダーエレクトリック)インダストリー事業部 バイスプレジデントの角田裕也氏に話を聞いた。

» 2024年10月29日 08時30分 公開
[長沢正博MONOist]

 市場環境の急変やサプライチェーンのリスクへの備え、人手不足が進む中での生産性向上……製造業を巡る環境は厳しさを増しており、工場のスマート化が求められている。IoT(モノのインターネット)機器など駆使して生産設備からデータを収集し、基幹システムなどと連携して製造現場の柔軟性、即応性を高める取り組みだ。

 工場のスマート化において日本と欧州でどんな違いがみられるのか、日本国内で産業領域を担当するSchneider Electric(シュナイダーエレクトリック)インダストリー事業部 バイスプレジデントの角田裕也氏に話を聞いた。

工場運営をマニュアル化し、トップダウンでスマート化

MONOist シュナイダーエレクトリック(以下、シュナイダー)における工場スマート化について教えてください。

角田氏 シュナイダー自身、グローバルで183カ所の工場と94カ所の物流センター、約1万4000社のサプライヤーを持つモノづくり企業だ。これらのスマート工場化に取り組み出したのは2017年となっており、日本企業と比べても特別早く始めたわけではない。

 だが、2020年には80カ所を超えるスマート工場と物流センターが誕生し、2023年にはそれらは150カ所を超えている。大きな要因となったのはテクノロジーではなく、ガバナンスの在り方だ。つまり、トップダウンだ。

角田氏 シュナイダーでも各地域の拠点で市場、ユーザーに合った最適なモノづくり、製品を届けようという考え方はあるが、共通化すべき点についてはグローバルが中心となってガバナンスをきかせる。工場運営はまさにそうだ。

 シュナイダーにはシュナイダーパフォーマンスシステムと呼ばれる仕組みがある。これは工場運営の進め方をマニュアル化したものだ。そこには、カイゼン活動なども含まれるが、どんなツールを導入しないといけないか、どんな点をデジタル化しないといけないか、それをいつまでにどこまで進めないといけないか、などが全てルールとして決められている。

スマート工場において成功のカギとなる5大要素[クリックで拡大]出所:シュナイダーエレクトリック

角田氏 そこでの工場長の役割というのは、与えられた予算の中で何をするのかなどではなく、いかにグローバルで決められたルールに沿って取り組みを進めるかだ。工場や物流センターには、責任を明確にするために、スマート化の取り組みの責任者も設定されている。この仕組みが、ものすごいスピードでスマート化を進める原動力になっている。

 工場のサイバーセキュリティもそこに含まれており、責任者が置かれ、毎月状況が報告されている。

 サイバーセキュリティを進めても、それで売り上げが上がったり、生産性が高まったりするわけではないから二の足を踏むという話も聞く。それは工場の予算でやろうとするからそういう話になるのであって、もしサイバー攻撃を受けて工場が止まったら比べものにならないほどの大きな損害になる。

角田氏 私もフランスにあるシュナイダーの工場を視察したが、現場で取ったデータがMES(生産実行システム)まで連携して、ダッシュボートとして誰でも見られるようになっている。購入する部材も余計なコストがかからないように、しっかりとデータに基づいて発注が行われている。設立から50年近くたっており、別に新しい工場ではない。

 米の調査会社であるガートナーの「サプライチェーンランキング2024」において、シュナイダーは2年連続で第1位に選ばれている。その大きな要素の1つが、在庫の少なさだったという。デジタルを活用して、いかにファイナンス的に効率よく運営ができているかといった点のスコアの高さが1位になった大きな要素だった。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)の目的は企業の競争力を高めることだが、それは最終的にファイナンスに効いてこなければならない。CO2排出量の削減や生産性の向上にもつながってくる。

日本のいいところはまね、カイゼンも改革活動も実施

MONOist ガバナンスの在り方がポイントになるのでしょうか。

角田 シュナイダーがなにか先進的なテクノロジーを開発したわけではない。シュナイダーと日本企業で使っているテクノロジーそのものに差はない。だから技術力の差ではない。

 もちろんボトムアップの取り組みもある。シュナイダーも日本のモノづくりをとても学んでいて、日本語の“カイゼン”という言葉をそのまま使って、日々のカイゼン活動を進めるプロジェクトがある。ただ、規模が大きくなると“改革プロジェクト”としてトップが人をアサインして進める。そこに予算も付ける。

 “日本とは違う”というよりも、日本のいいところはまねしようとしている。だから、文化やアプローチが違うという言葉だけではもはや表現できない。

角田氏 シュナイダーでは、サイバーセキュリティも含めてデータが流れるインフラを作ることを優先している。ボトムアップによる個別の自動化も素晴らしいが、それだけではたとえデータは取れても、個々のデータを統合できなくなってしまう。われわれのスマートファクトリーの条件にも無人化を目指そうなどとは書かれていない。

 ルールをしっかりと策定して、トップダウンで下におろす仕組みを作る。もちろんルール自体は、試行錯誤しながら1年ほどかけて策定した。そういったガバナンスの差が、こういった評価やライトハウスの認定数などの差として出ているのではないか。

シュナイダーエレクトリックの角田氏[クリックで拡大]

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