特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

スマート工場は“分断”が課題、カギは「データ取得」を前提としたツールの充実MONOist 2021年展望(1/2 ページ)

工場のスマート化への取り組みは2020年も広がりを見せているが、成果を生み出せているところはまだまだ少ない状況だ。その中で、先行企業と停滞企業の“分断”が進んでいる。新型コロナウイルス感染症(COVID−19)対応なども含めて2021年もスマート工場化への取り組みは加速する見込みだが、この“分断”を解消するような動きが広がる見込みだ。

» 2021年01月12日 12時30分 公開
[三島一孝MONOist]

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photo 2020年には日立製作所の大みか事業所がWEFのLighthouseに選ばれるなど着実にスマート工場化の動きは広がりを見せている(クリックで該当記事に)

 IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などを駆使し、状況に合わせて自律的に変化する生産ラインを実現する「スマート工場化」への取り組みは2020年も多くの成功事例が紹介されるなど着実に広がりを見せている(※)

(※)≫「スマート工場最前線」

 2021年はドイツの「インダストリー4.0」のコンセプトが発表された2011年から10年となるが、当時描かれたさまざまな方向性の多くを現実化するようなツールやソリューションが登場しつつある。しかし、その一方で、これらの新しいコンセプトを現実的なビジネスとして取り入れるのにはまだまだ難しい部分も多く、取り組んでみたもののうまくいかずに苦しむ企業も多い。実証ばかりで“PoC(概念実証)疲れ”などの話も現場ではよく聞く話だ。

 こうしたうまくいかない企業では、スマート工場化への取り組み意欲が下がる状況も生まれつつある。経済産業省などが毎年発行している「2020年版ものづくり白書」の調査データでは、「製造工程のデータ収集に取り組んでいる」とする企業の比率は2017年度をピークに減少傾向となっていることが示された。また、その他のデータを活用するさまざまな調査項目についても横ばいや減少傾向となる結果が出ていた。さまざまな調査項目があり、公開されている項目が全てではないとはいえ、多くの企業においてスマート工場化の取り組みは一時期の熱気に対して“停滞ムード”が漂っているといえる。

photo 製造業のデータ活用についての調査結果(クリックで拡大)出典:2020年版ものづくり白書

スマート工場の阻害要因は「短期的成果が得られない」と「組織的問題」

 実際に、MONOistを含むアイティメディアのモノづくり系メディアでの読者調査でも、「スマートファクトリー化が明確な成果に結び付きにくい」という調査結果が出ている。「つながる工場・製造業IoT」についての読者調査(2020年6月17日〜7月13日、総回答数564件)を見ると、「つながる工場」への取り組み状況については63.1%が「取り組んでいる(または取り組む予定)」としていた。しかし、これらの「取り組んでいる(または取り組む予定)」回答者に「期待していた価値が十分に得られているか」を聞くと「いいえ」が51.9%となり、半分以上が求める成果を得られていない状況が生まれていることが分かる。

photo 「つながる工場」へ取り組む意向は6割以上があるのに対し、期待通りの成果を得られているのはその半分以下という結果となっている(クリックで調査結果に)出典:Techfactory「『つながる工場』は実践フェーズに移行、課題は『コスト・人材・費用対効果』」

 一方で、組織的な問題もある。自律的に変化する生産ラインで「マスカスタマイゼーション」を実現するような理想を実現するためには、製造部や生産技術部など以前から製造に関わってきた部門以外にも多くの部門が関わることになる。そこで、組織の整備や目標や成果の調整などが必要になるが、これらの整理が進んでいないために、組織的な合意形成がなく「成果が出ない」と認識されてしまうところである。

 「2020年版ものづくり白書」の作成を担当した経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室 課長補佐の渡邉学氏は、製造現場におけるデジタル技術活用が横ばいから微減となっている調査結果に対し「デジタル化まではまだたどり着いておらず、これまでやりとりのなかった部門同士がやりとりを始めた段階なのではないか。デジタル変革を進め、デジタルの世界で業務がシームレスにつながる世界を描く前に、まずはフィジカル(アナログ)の世界で組織や体制などの前準備を整えるということに注力していると考える」と述べている。

 以前からの人手不足などに影響に加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響などを考えると、デジタル技術を活用した工場のスマート化への動きはもはや避けられない状況にある。こうした背景のもと、2021年はさらに「スマート工場についての組織的な課題解決」と「成果に直結するさまざまなツール」への期待が高まる1年になる見込みだ。

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