矢野経済研究所は、国内の車載ソフトウェア市場を調査し、2030年までの同市場規模、制御系と車載IT系の領域別比率を発表した。同市場は2030年には1兆円に迫る規模に拡大すると予測する。
矢野経済研究所は2024年10月9日、自動車メーカーやティア1など自動車部品サプライヤーが供給する国内の車載ソフトウェア市場を調査し、2030年までの同市場規模、制御系と車載IT系の領域別比率を発表した。同市場は2030年には1兆円に迫る規模に拡大すると予測する。
車載ソフトウェアは、制御系と車載IT系に分類される。制御系は電子的に自動車をコントロールするECU(電子制御ユニット)で構成され、ADAS(先進運転支援システム)などの高性能化により搭載数が増加傾向だ。車載IT系はCASE(Connected、Autonomous、Shared & Service、Electric)を目指して開発が進められ、クラウドベースでの運用により、エンタテインメントを含むさまざまな車載関連アプリケーションが作動する。
自動車メーカーや自動車部品サプライヤーが自社で開発する車載ソフトウェア費用や研究開発費、設備投資費用などから計算した、国内車載ソフトウェア市場規模は2021年で5824億円となり、制御系と車載IT系の領域別比率は制御系が86.6%、車載IT系が13.4%であった。
2023年における同市場は前年比101.0%の6286億円で、領域別では制御系77.2%、車載IT系22.8%と、車載IT系の比率が年々高くなっている。
2024年の同市場規模は対前年102.4%の6440億円で、構成比は制御系が71.5%、車載IT系が28.5%の見込みとなる。ビークルOSやHAL(ハードウェア抽象化レイヤー)などを中心に、急速に自動車メーカーの研究開発費が増加し、そのうち一部が協力会社(ソフトウェア開発ベンダー)向けに開発案件として移行されている。他方、制御系はこれまでのECUが統合していくこともあり、2022年から減少しており、車載IT系の比率が高まっていく要因となっている。
車載ソフトウェアの開発に関しては、多くはトライアンドエラーで進められる。現在、主に国内大手自動車メーカーがビークルOSおよび周辺システムの開発を急ピッチで進めており、その成果は2027年頃に現れると予測する。
加えて、統合ECUへ収束することもあり、車載ソフトウェア市場における制御系と車載IT系の構成比は2027年にはおおむね半々前後になるものと思われる。ただし、制御系ソフトウェアもドメイン型からゾーン型へとシフトしていくこともあり、車載IT系の規模には及ばないものの、投資は継続的に続くと考えられる。
このような次世代の車載ソフトウェアが実車に搭載されるのは2030年頃になると思われ、2030年には国内車載ソフトウェア市場規模は9810億円まで拡大すると予測する。
2020年代の前半には、OEM各社は車載IT系ソフトウェアの開発を中心に進めており、特にビークルOSの研究開発を積極的に行っている。しかしながら、パワトレ系やシャシー系などドメインを重視した制御系ソフトウェアを使っている状態で、ビークルOSを搭載するにはシステムが煩雑すぎて、つなぎの段階で断念する事例が多く見られた。
そうした中、自動車メーカー各社は車載IT系との連携を進めるために、これまでのドメインから構成された制御系の構成を見直し、ゾーン型の制御系システムの開発を進めてきた。ゾーンアーキテクチャを達成する上では、従来とは異なる考え方で制御系ソフトウェアを設計しなければいけない。
つまり、ドメインごとにくくられたECUの束を一度解体した後に、「クリティカルな動作を要求されるもの」「情報量が多いものの多少の遅延は許されるもの」などにパターン化して、再度くくる必要がある。
現状ではくくり方について自動車メーカー各社ともに明確な方針はないものの、ISO 26262によるASIL(Automotive Safety Integrity Level:自動車安全水準)の考え方を採用することが多く、クリティカルな動作を求めるものはASIL-D、遅延などが許されるものはASIL-Bなどと3〜4区分でくくると理解しやすい。ここでくくられた3〜4群のECUは、ゲートウェイを仲介しHPC(High Performance Computer:高性能コンピュータ)に接続されコントロールされる。
HPCの上位レイヤーにはアプリケーション層があり、必要な機能をアプリケーション上の要求に従って実行していく。3つのHPCで構成する場合は、3つのOSが必要となる。これまで進めてきた1つのOSで構成する手法は、多くのケースが失敗に終わった。仮に制御系ソフトウェアを複数に区分できる場合、順次、容易に開発できる機能から実装していくことができる。
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