東芝が開発した慣性センサーモジュールの成果を基に、東芝電波プロダクツが開発に取り組んだのが持ち運び可能なサイズのジャイロコンパスである。慣性センサーモジュールはモビリティの自己位置推定が主な用途であるのに対し、ジャイロコンパスは正確な方位を推定するのに用いる。
ジャイロコンパスは、ジャイロセンサーで地球の自転を計測することで真北を推定し、そこから方位を定める。ジャイロセンサーは、北に向けると地球の自転を検出し、南に向けると逆回転で地球の自転を検出する。東西に向けた場合には、地球の自転を検出できない。一般的な地磁気を利用する磁気コンパスと比べて、周囲の環境に影響されることなく性能を維持できる点で注目が高まっている。
現在市販されているジャイロコンパスのうち、機械式や光学式のジャイロセンサーを用いている製品は、1km先での誤差が1m以内になる0.05度程度の精度を実現しているものの、容積が数十リットル、重さが数十kgと大きく重く、持ち運ぶことは難しい。MEMSジャイロセンサーを用いた製品も提案されており、容積が数リットル、重さが数kgと小型軽量ではあるが、精度は1度程度と機械式/光学式のジャイロセンサーを用いるものより大幅に低い。なお、地磁気センサーを用いる磁気コンパスの精度は数度程度となっている。
東芝電波プロダクツが開発したジャイロコンパスは、搭載したジャイロセンサーの設置方向を90度刻みで切り替えていく「メイタギング法」と呼ばれる手法を用いて方位を推定する。新開発のジャイロセンサーを用いることにより、0.056度の精度を実現するとともに、外形寸法が直径180×高さ161.6mmで容積約4リットル、重さ約4kgとなり、MEMSジャイロセンサーを用いたジャイロコンパスと同等クラスのサイズになっている。持ち運び可能で高精度なことから、防衛分野におけるレーダー設置、土木工事の測量や地中掘削の方角推定などの用途に最適とする。
なお、東芝は2020年に今回の開発成果の基となるMEMSジャイロセンサーの開発を発表している。その後、2021年度から防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度の下で、10cc級の超小型、160dbの超高ダイナミックレンジ、1NM(ノーティカルマイル)/hの超高精度を満たす小型高性能慣性センサーモジュールの開発を進めてきた。今回の発表は、この研究開発成果の応用となる。最終年度に当たる2025年度に向けて、現在サイズが約200ccの慣性センサーモジュールを10ccまで小型化する取り組みを進めていく方針である。
今回の成果は、2024年9月1〜4日にハンガリーで開催されるセンサーやMEMSの学会「EUROSENSORS XXXVI」で発表される予定だ。
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