今回東芝が開発したMEMS慣性センサーは、高いダイナミックレンジと精度を両立することを目指して、角速度や加速度を計測するための検出原理に変位を用いない方式を採用した。ジャイロセンサーについては、地球の自転の角度を計測できるフーコーの振り子と同じ物理的原理に基づいて物体の角度を直接検出できる「角度直接検出モード」と、物体の回転によって引き起こされるコリオリ力を利用して物体の角速度を測定する「角速度計測モード」を切り替えて使用できる、拡張型の「角度直接検出型ジャイロ(Rate Integrating Gyroscope:RIG)」を採用した。一方、加速度センサーでは、物体やシステムが最も効率良く振動する周波数である共振周波数の変化で加速度を計測する「差動共振型加速度センサー(Differential Resonant Accelerometer:DRA)」を採用している。
これらのジャイロセンサーと加速度センサーを用いて新たに開発した慣性センサーモジュールは、外形寸法が約120×80×20mm、容積が約200ccとなっており、一般的に数十cm角のサイズになる機械式や光学式の慣性センサーモジュールと比べて大幅な小型化を実現している。なお、ジャイロセンサーと加速度センサーは14mm角のパッケージに集積されており、慣性センサーモジュールには、慣性センサーを振動させて信号を高精度で取得するための信号処理系のアナログ回路や、得られた信号を検波してセンサーの動作にフィードバック制御を行うための制御用のデジタル処理チップ(FPGA)などが組み込まれている。
精度を示すBI(バイアス安定性)については、ジャイロセンサーが0.01dph以下、加速度センサーが0.43μG以下を達成できている。開発目標としては、太平洋航路をGPSなしで飛行できるナビゲーショングレードの慣性計測装置に求められる、ジャイロセンサーで0.01dph以下、加速度センサーで1μG以下をクリアしており、小型慣性センサーモジュールとしては世界最高レベルの精度を達成できているという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.