3D CADやCAEなどのソフトウェアに関しては、Webサイトやオンラインセミナーなどで、ある程度の情報を得ることができますが、3Dプリンタなどのハードウェアはやはり現物を見るのが一番です。展示会などに行った際は、サイズ感や動作スピードなどを自分の目で確かめるようにしています。また、ほとんどの場合、造形サンプルも展示されていますので、実際に触れて品質や触感なども一緒に確認しています。
今回、構成展の1つである「第7回 次世代3Dプリンタ展」を見て回りましたが、100万円以下で購入できる安価な3Dプリンタの展示も増えており、価格だけでなく、精度や品質、造形スピードなどをウリにしているものも目立ちました。
例えば、MONOistの展示レポート「Phrozenの日本法人がLCD方式光造形3Dプリンタの新製品を本格展開」でも紹介されていたPhrozen Technologyの3Dプリンタもその1つです。記事では、数十万円の光造形3Dプリンタをメインに取り上げていましたが、中には数万円で購入できるものもあります。現在は販売終了していますが、筆者は過去に3万円以下で「Phrozen Sonic Mini」を購入したことがあります。個人の趣味レベルであれば十分に使えます。また、大きいサイズのものは出力できませんが、ものによっては、機械部品の試作や治具などの造形にも使えるかと思います。
同じ光造形3Dプリンタで、産業用途向けとして筆者が注目していたのは、Formlabsの新型3Dプリンタ「Form 4」です。前機種の「Form 3」と比べて、造形スピードが上がり、超高速、高精度、高品質を実現しています。従来のForm 2/3/3+/3Lと同等の材料が用意されており、新たにForm 4専用の新材料も追加され、負荷の高い用途にも耐え得る高品質部品の製作が可能とのことです。詳細については、MONOistの記事「Formlabsが新型3Dプリンタ『Form 4』発表、LFSを超えるプリントエンジンを採用」をご覧いただければと思います。
Formlabsは、小ロット量産対応のSLS(粉末焼結積層造形)方式3Dプリンタ「Fuse」シリーズも提供しており、ナイロンパウダー材料をレーザで焼結し、積層することで、丈夫で機能的なパーツの造形を行います。
3Dプリンタの造形方式が「材料押出」「熱溶解積層法」「FDM」などと呼ばれるものに関しては、通常のフィラメントではなく、射出成形と同じペレットを材料として利用できる装置(ペレット式3Dプリンタ)が徐々に増えてきた印象です。材料のペレットに関しても、最終製品と同じ樹脂だけでなく、廃棄されたプラスチック製品を回収し、洗浄、粉砕、リペレット化したものを使用できるなど、環境配慮や資源循環の観点からも注目を集めています。
MONOistの展示レポート「工場で出る廃プラスチックを3Dプリンタでリサイクル、治具や設備などで再利用」では、エス.ラボのペレット式3Dプリンタを活用した「リサイクルラボシステム」について取り上げています。
ペレット式3Dプリンタについては、ExtraBoldもその先駆者として有名です。同社はプラスチックリサイクルを体験できるショールームを開設し、2024年4月に報道陣向けに施設を公開しました。詳しくはこちらの記事「ExtraBoldが樹脂リサイクル体験型ショールームを公開、あの最新装置もお披露目」をご覧ください。なお、超大型造形が可能な工業用グレードの「EXF-12」については、筆者が執筆した2022年の展示会取材記事「テルえもんが見た『日本ものづくりワールド 2022』現地レポート」にも取り上げています。
他にもペレット式3Dプリンタとして、ドイツの老舗射出成形機メーカーARBURG(アーブルグ)の「Freeformer」があります。同社独自の造形方式であるAPF(Arburg Plastic Freeforming)方式は、特殊な可塑化スクリューを使用し、射出成形と同じように材料を溶かして、高周波/高精度パルスノズルにより、パーツキャリアに溶融した微細ドロップレット(溶滴)を吐出する方式で、ARBURGのみが有する国際特許取得済みの技術だそうです。材料は、汎用(はんよう)プラスチック、エンジニアリングプラスチック(以下、エンプラ)の他、スーパーエンプラやTPE(熱可塑性エラストマ)にも対応しています。硬さ違い(硬い/柔らかい)の材料を組み合わせた機能部品を強固な接合をもって造形することも可能です。
3Dプリンタの活用方法については、業界老舗のストラタシスと3D Systemsからさまざまな提案がされていました。MONOistの展示レポート「ストラタシスが自動車業界における多彩な3Dプリンタ活用の方向性を提案」にある通り、ストラタシスは、自動車業界での設計から製造までの各フェーズに対し、フルカラーで複雑な形状が再現できる3Dプリンタの特長を生かした提案を行っていました。
3D Systemsは、最終製品として使用する「ダイレクト製造」の他の活用方法として、従来工法の一部に3Dプリンタを取り入れて、効率化やコスト削減などを目指す「インダイレクト製造」について紹介していました。例えば、ペレット押出式大型3Dプリンタ「EXT Titan Pellet」を用いたインダイレクト製造の事例として、真空成形用内装パネル型とその成形品や、砂型鋳造用の木型を樹脂に置き換えた型などが展示されていました。詳しくはMONOistの展示レポート「製造用途での3Dプリンタ活用の現実解、3D Systemsがインダイレクト製造を訴求」をご覧ください。
今回は「第36回 ものづくり ワールド[東京]」を振り返りながら、3D CADと3Dプリンタの最前線について考察してみました。確実に3Dデジタルモノづくりに関する技術は進歩していますね! 他にも紹介したかった3D CADや3Dプリンタがありましたが、それらについては今後の連載の中で取り上げられたらと思います。
また、今回は3Dスキャナーについて全く触れませんでしたが、こちらについても同様に今後の記事で紹介できればと考えています。最近は、安価で購入できる3Dスキャナーも登場し、速度、精度、品質の向上も目を見張るものがあります。
3D CADを中心とした3Dデジタルモノづくりを加速させていくためにも、「3Dデータを使い倒す」ヒントとなるような記事を本連載を通じて紹介していきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。 (次回へ続く)
小原照記(おばら てるき)
いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。
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