なぜ止まらないラインは悪なのか、老舗総合無線機メーカーが磨くモノづくり力メイドインジャパンの現場力(2/3 ページ)

» 2024年07月19日 08時00分 公開
[長沢正博MONOist]

止まらない生産ラインは悪、独自のIPS生産方式とは

 和歌山アイコムはアイコムの100%出資による生産子会社として1988年に設立され、1989年から操業している。1万4000品種の材料を使い、約160種類、約200モデルの無線機を毎月生産している。敷地面積2万6000m2、建屋面積1万19002の3棟からなる有田工場と、敷地面積2万3210m2、建屋面積1万119m2で1棟の紀の川工場(和歌山県紀の川市)があり、アイコムの製品は全てこの2つの工場で生産している。従業員数は2023年4月時点で有田工場が235人、紀の川工場が43人となっている。主力となっているのは有田工場で、紀の川工場では海外向けの業務無線機の一部を生産している。

 同社のモノづくりの特色の1つが、IPS(アイコムプロダクションシステム)と呼ばれる生産方式だ。IPSでは、あえて生産ラインへ負荷を与えることで、問題を抽出し、改善と効果の確認を繰り返して、品質と生産性の向上を図る。

IPS(アイコムプロダクションシステム)のモデル[クリックで拡大]出所:アイコム

 有田工場では、このIPSを基本にしたコンベヤーストップ方式とインラインセルストップ方式を作業工数や部品点数、生産台数により使い分けている。

 例えば、コンベヤーストップ方式では、8時間分の生産量をあえて7時間30分で終わるスピードでコンベヤーに流し、問題が発生した時点で該当の作業者が手元のボタンを押してラインを止める。本来のペースより早くコンベヤーを動かしているため、どこかで無理が生じるのは必至だが、IPSではその無理が生じた場所を改善ポイントとして位置付ける。

 ラインがストップした工程や時間、原因などは全てコンピュータに記録され、それらを元に原因を究明し、改善策を話し合う。そのため、ストップしないラインは、作業スピードに余裕があるか、作業者が余分にいるとされ、評価されないようになっている。

作業者の隣にあるラインストップ用のボタン。ストップした原因を分別するボタンもある。[クリックで拡大]
大きな時計は12時を起点にその日にラインがストップした時間の合計を表している。小時計は段取替え時間、カウンターは段取替えの回数だ[クリックで拡大]

「もし、朝からラインが止まっていなければ問題が全くないということだ。IPSでは、その状態を最悪な状態として捉え、コンベヤーの速度を上げる」(アイコム)

 このコンベヤーストップ方式とセル生産方式を融合させたインラインセルストップ方式では少数の作業者で組み立てから検査、完成までを行う。作業台となるセル台は自由に入れ替えることができ、多様化する市場ニーズに柔軟に応える多品種少量生産が可能だ。

 和歌山アイコムでの具体的な生産の流れはまず、アイコムの本社で材料を購入し、それが和歌山アイコムに直送される。倉庫には約1万4000種の材料が保管されている。その後、基板に対して部品を実装する。実装ラインは4つあり、実装能力は1時間当たり4万6000点となっている。その後、フロー実装を経て、製品の組み立てを行う。

面実装ラインは全部で4つある[クリックで拡大]
面実装ラインで使用するクリームはんだ用の自動販売機。先入れ先出しを徹底するために導入した。A側がなくなればB側から取り出す。どちらかがなくなったタイミングで発注をかけることで、発注漏れをなくす運用もされている。

 有田工場の組み立て工程にはコンベヤーストップ方式のラインが4つ、インラインセルストップ方式のラインが5つある。人手不足などに対応するためロボットの導入も進めている。

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