脱炭素社会の到来に向けて、欧州で大幅前進する産業データ連携基盤の取り組みCNTF 2024春 講演レポート

アイティメディアにおける産業向けメディアのMONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパンが開催した「カーボンニュートラルテクノロジーフェア 2024 春 技術革新と持続可能な未来の共存」の中から、「インダストリー4.0の動向とサステナブルな社会変革への動き」と題した基調講演の内容を紹介する。

» 2024年07月01日 07時00分 公開
[長町基MONOist]

 アイティメディアにおける産業向けメディアのMONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパンは2024年6月3〜4日、ライブ配信セミナー「カーボンニュートラルテクノロジーフェア 2024 春 技術革新と持続可能な未来の共存」を開催した。本稿ではその中から、アルファコンパス 代表の福本勲氏による「インダストリー4.0の動向とサステナブルな社会変革への動き」と題した基調講演について、その一部を紹介する。

分散ネットワーク型の産業構造へ

 福本氏はカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーなど、持続可能な取り組みへの不可逆的な移行が求められる中、欧州での新しい産業革命に向けた動きや、データ連携基盤の構築の進展など最新状況について述べた。

アルファコンパス 代表の福本勲氏 アルファコンパス 代表の福本勲氏 出所:福本勲氏

 ドイツが国家プロジェクトである「インダストリー4.0(Industry4.0)」を発表してから2024年で13年目となる。「この間、日本のデジタル化の取り組みは既存ビジネスの延長線上での効率化に終止してきた。一方、ドイツをはじめとした欧米のデジタル化は、社会や経済基盤の再設定などの観点からの着実な歩みをみせている」と福本氏は指摘する。そして、「化石燃料からカーボンニュートラルへ」「リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへ」「集中型から分散×ネットワーク型へ」と不可逆的な移行が進んでいることを紹介した。

 第一次産業革命以降、大量生産、大量消費、大量廃棄というリニア型の産業社会システムの枠組みの中で経済活動が進んできたが、その間に環境汚染、資源の枯渇などの問題が深刻化している。このままでは地球の未来は、よりネガティブな方へ向かうという意見が巻き起こっている。

 それらに対して、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーへの転換の動きがグローバルな規模で急速に広がってきた。産業の枠組みも従来の垂直統合集中型から網目状につながる分散ネットワーク型に移っていくことが考えられる。つまり、モノを作るだけの固定的なサプライチェーンからそれにとどまらない、緩やかなエコシステムへの転換が求められている。こうしたエコシステムを支える手段がデジタルやネットワークを用いたDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。

進化し続けるデータ連携基盤

 欧州でもカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、地政学的なリスクへの対応のためにレジリエンスなサプライチェーンの構築が求められている。ドイツではオートノミー、インターオペラビリティ、サステナビリティをコンセプトとしたIndustry4.0の新しいビジョンが2019年に発表された。EUの欧州委員会では2021年に「Industry5.0」を示した。このIndustry5.0では、日本政府が提唱する未来社会のコンセプトのSociety5.0が関連する先行コンセプトという形で触れられている。

 Industry4.0ではデジタルファクトリーからデジタルエンタープライズ、デジタルエコシステムを経てデジタルエコノミーに向かうことを実現するためにさまざまなイニシアチブが立ち上がってきた。GAIA-X、Catena-X、Manufacturing-Xなどにより、データ連携基盤は進化を続けている。

 さらにManufacturing-Xを中心に、階層ごとにサブプロジェクトの展開が始まった。並行してManufacturing-Xのグローバル展開も進んでいる。さまざまな国々と長期にわたってデジタルイノベーションを推進する信頼、協力関係を築いていくために、International Manufacturing-X Councilの設立にも取り組んでいる。

 2024年に注目すべきManufacturing-Xのサブプロジェクトの1つに、Factory-Xがある。このFactory-Xが、Manufacturing-XとInternational Manufacturing-X Councilの間の調整役を担うことになる。

進むデジタルプロダクトパスポートの社会実装

 欧州でのサステナビリティ実現への取り組みとして注目されているのがデジタルプロダクトパスポート(DPP)だ。DPPがまず適用される製品としてはEV(電気自動車)のリチウムイオンバッテリーがあげられており、「バッテリーパスポート」としてすでに法制化が進められている。バッテリーパスポートとはバッテリーのライフサイクルにかかるステークホルダーの間で情報交換し、相互認証を行う仕組みであり、EVのリチウムイオンバッテリーなどはそのもとで管理されることとなる。自動車に使用された後、ほかの目的でリユース可能であれば、リサイクルよりも優先することが法的に要求される。

 EUでは2023年8月、バッテリー製品の原材料調達から設計、製造、利用、リサイクル、廃棄などに至るライフサイクル全体を規定するEUバッテリー規則が発効された。この規則にのっとり、2024年から順次、規定された開始時期に沿って各義務が適用されることになる。2027年からはバッテリーパスポートを介し、ラベル表示情報、原材料構成、カーボンフットプリントなどに関する情報へのアクセスを確保することが求められ、これらを二次元コードから読み取れるようにすることも定められた。

 こうした昨今の欧州の動きと日本企業への影響をまとめると次のようになる。1つはサステナビリティやレジリエンス意識の高まりだ。これにより、DPPの法令化への対応など、具体的に取り組まなければならないことを含め、ユースケースの具現化が確実に進むことになる。

 2つ目には、新たなテクノロジー(生成AI(人工知能)、メタバースなど)の積極的な産業利用の活発化がある。それに伴い、組織/エコシステム/企業間、クライアントや顧客とのコラボレーションの在り方、人にしかできない仕事が大きく変化し、継続的な教育の必要性が高まることが予想される。

 3つ目には、プラットフォーム/エコシステム構想、データ共有圏の取り組みの動きの大幅な前進が上げられる。今後、水平垂直方向の連携、双方を巻き込んだエコシステム構築が確実に進むとみられる。

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