MONOist 一般的には環境での取り組みを事業内容に深く入って動かすのが難しいという話もよく聞きます。セイコーエプソンでは、なぜさまざまな取り組みを実行力の伴う形で進めていけているのでしょうか。
木村氏 従来は環境についての取り組みは事業ごとに個別に行っており、個々で進めていました。2023年度に全社横断組織として「地球環境戦略推進室」が設立されたことが大きかったと考えています。この組織の中に、主要部門の責任者が兼任で入っており、それぞれの職分の中で環境について取り組みを考えてもらっています。
地球環境戦略推進室には、環境部会として環境技術開発部会、環境ビジネス部会、環境コミュニケーション部会、環境DX部会、全社横串テーマ部会、Scope3戦略部会(※)を設置しています。この部会の責任者が、主管部門長となっており、毎月環境戦略定例会として、新たな取り組みの立案や進捗の報告などを行っています。こうした体制となったことで、それぞれが事業の中でどういうことに取り組むのかが明確になった他、組織間での横断的な判断などもやりやすくなりました。
(※)2024年度からは環境技術開発部会と環境ビジネス部会、Scope3戦略部会を改変
また、特に環境についての取り組みで重要だと考えているのが、コミュニケーションを全社共通で行っているということです。環境の問題は、社内でも設計から製造、調達や販売、ビジネスモデルなど多岐にわたる他、外部に理解を促さなければ進まない問題も多くあります。ステークホルダーに情報発信をしていくことが、一般的な事業以上に重要です。資源循環の回収や、最終製品の価格転嫁、再生可能エネルギーの利用拡大の問題など、一般消費者なども含めた機運を醸成する必要などもあります。
活動を持続可能にしていくためには「世の中をどう巻き込んで変わっていくか」が1つのキーワードだと考えています。そのためには、戦略的にコミュニケーションを進めていく必要があります。その意思統一を環境部会で行えているということも非常に意味があると考えています。
MONOist 推進していく上での課題についてどう考えていますか。
木村氏 過去にやったことがないことが多くあるため、やればやるほど課題が出てくる状況ですが、大きく見ると脱炭素ではサプライヤーの巻き込みと研究開発の部分になると考えています。研究開発については、先ほど述べたスコープ1の代替技術などについてのところです。サプライヤーの巻き込みについては、スコープ3でのカーボンニュートラル化に向けた共創です。
スコープ3でカーボンニュートラル化を目指すためには、サプライヤーの協力は不可欠になりますが、今一緒に取り組みを進めるためにどうするかについて協議を始めています。2024年6月から説明会を開始し、具体的な脱炭素の目標設定や再生可能エネルギーの導入目標などの確認を始めました。これらを自社の排出量算定にどう組み込んでいくのかは、業界団体なども含めて仕組みを検討している段階ですが、セイコーエプソンとしてもシステムベンダーと話し合い、独自で算出できる仕組みの構築を進めています。サプライヤーからの反発も予測していましたが、ヒアリングした中では「やらなきゃならない」という課題意識の方が強く、前向きに捉えてもらっていると感じています。
一方、資源循環については、ビジネスモデルと技術開発両面が課題だと考えています。現在の延長線上では難しい部分も多いので、こちらも技術やビジネスモデル構築などで共創を進め、外部を巻き込みながら進めていくことが必要だと考えています。
MONOist 直近で特に強く意識している目標はありますか。
木村氏 もちろん全ての目標を達成するつもりですが、2023年末に全拠点での再生可能エネルギー化を達成したので、2030年のスコープ1、2でカーボンニュートラル化をぜひ達成したいと考えています。そのためには、先述したように、スコープ1のカーボンニュートラル化が大きなカギを握ります。ただ、この点については、既存の技術が全て一長一短であり、技術の進化が著しい中で「今全てを決めない」ということだけは決めています。技術や規制などいろいろ変わる中で、あわてて決めずに見極めていきます。
環境の問題は、自分たちで全てやろうとせずに、できるところを着実に進めていくということが重要だと考えています。世の中が変われば勝手にクリアできるものも数多く存在します。その中で難しく考えすぎず、パートナーなどと一緒に進めていけるようにしていくつもりです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.