ケニアで廃棄された服をパリコレのオートクチュール素材にアップサイクルリサイクルニュース

セイコーエプソンは、DFTの繊維化技術とインクジェットデジタル捺染機「Mona Lisa」シリーズの活用事例として、ファッションブランド「YUIMA NAKAZATO」との取り組みを発表した。

» 2023年10月05日 10時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 セイコーエプソンは2023年10月4日、東京都内で会見を開き、独自に開発したドライファイバーテクノロジー(DFT)の繊維化技術とともに、インクジェットデジタル捺染機「Mona Lisa」シリーズの活用事例として、ファッションデザイナーの中里唯馬氏が代表取締役社長を務めるファッションブランド「YUIMA NAKAZATO」の新コレクションの制作支援について説明した。

「服の山」で購入した150kgの廃棄衣料品を不織布シートに

 国連貿易開発会議(UNCTAD)が2019年に発表した資料で石油に続く世界2番目の環境汚染産業はファッション(繊維/アパレル)産業だとしている。一方、国連環境計画では、世界で排出されるCO2のうち約10%はファッション産業が排出している他、工業用水汚染の約20%が衣服の染色と仕上げの影響だと公表している。さらに、国連欧州経済委員会/世界資源研究所では毎年製造される服の約85%が焼却/埋め立て処分されていると発表した。

 ファッション産業が抱える課題はこれらだけではない。工場内は染料を加えたのりである色糊(いろのり)などによる悪臭と汚れが目出つという問題もある。色糊には人体にとって有害となる薬剤なども含まれるため手作業での調合や塗布作業には危険も伴う。工場では大量の色糊を要することに加え、使用する刷版の洗浄も必要なため、大量の廃液が生じる。それが河川に流れて水質汚染を引き起こすケースもある。

 これらの解決策として、セイコーエプソンはインクジェットデジタル捺染機のMona LisaシリーズとDFTの繊維化技術を開発した。Mona Lisaシリーズでは、これまでのアナログ捺染で必要だった製版、インク調合、刷版洗浄、不要インク廃棄などの工程をなくすことで、水使用量を最大で96%削減し、廃棄インクや労働負荷の軽減も実現している。

アナログ捺染とインクジェットデジタル捺染の工程の違い[クリックで拡大] 出所:セイコーエプソン

 DFTの繊維化技術は、水を使用せずに、古紙や使用済みの衣服、タオル、木材、ウール、絹糸を繊維化でき、繊維化した素材は用途に合わせてペレット、シート状、板状に加工できる。

 また、2022年10月20日には、ファッション産業が抱える環境負荷の改善に前向きな中里氏のYUIMA NAKAZATOとパートナーシップを締結した。このパートナーシップにより、セイコーエプソンのMona LisaシリーズやDFTの繊維化技術などを用いて、環境負荷を低減しながら多様なニーズに応える高品質な衣服づくりを行うための技術研究や仕組みづくりを展開している。

 2023年1月25日には、同日にフランス・パリで開催されたいわゆる“パリコレ”の1つである「パリオートクチュールファッションウイーク2023年春夏コレクション」で、YUIMA NAKAZATOが披露した一部のオートクチュールの制作をセイコーエプソンがサポートした。具体的には、世界のごみの最終処理場と評されるケニアで中里氏が回収した古着を、セイコーエプソンがDFT繊維化技術で約50m分の不織布シートへと再生した。さらに、中里氏のデザインに基づきMona Lisaシリーズで顔料インクをその不織布シートにプリントし、オートクチュールの一部へとアップサイクルした。

 同年7月5日にフランスで開催された「パリオートクチュールファッションウィーク2023-24年秋冬コレクション」でも、YUIMA NAKAZATOが披露した一部のオートクチュールの制作を支援した。そこでは、中里氏がケニアの廃棄場「服の山」で購入した150kgの廃棄衣料品を、セイコーエプソンのDFT繊維化技術で150m以上の不織布シートとした。なお、このコレクションに向け、セイコーエプソンは、DFT繊維化技術の性能を向上させ、従来比で37.5%の軽量化を達成するとともに、デジタル捺染に適した不織布を実現した。

「パリオートクチュールファッションウィーク2023-24年秋冬コレクション」で披露した、廃棄衣料品をアップサイクルした素材を用いたオートクチュール[クリックで拡大]
YUIMA NAKAZATO 代表取締役社長 ファッションデザイナーの中里唯馬氏[クリックで拡大]

 その不織布に中里氏のデザインをプリントする際にはMona Lisaシリーズの新型「ML-13000(プロトタイプ)」を使用することで、従来と比べ、衣装制作の生産効率を3倍に引き上げ、環境負荷の低減も強化した。ML-13000は、インクだけでなく3種類のコート剤を必要な分量だけ吐出することに応じるため、インクの発色性、堅牢性、柔軟性を高められる。

 中里氏は「ケニアで廃棄された衣料品が、DFTの繊維化技術で不織布となりMona Lisaシリーズで捺染されオートクチュールとなって、パリコレで披露されるのは考え深い。なぜなら、多くの人が価値がないと思う、廃棄された衣料品がアップサイクルされ、世界でもトップクラスの価格で服が取引されるパリコレが高級と認めるオートクチュールの素材に生まれ変わったことを示すからだ」と話す。

 今後も、セイコーエプソンはYUIMA NAKAZATOのコンセプト「全ての人に1点がものがもたらす喜びを」を体現するために、衣装制作から空間制作までを総合的にサポートするとともに、新素材生地とデジタル捺染を組み合わせて、新しい衣服づくりへの挑戦を支援する。加えて、DFTの繊維化技術を活用することで、繊維の再生についても研究を行い、循環型サプライチェーンの可能性を検討していく。

フォトセッション、左から、セイコーエプソン 執行役員 プリンティングソリューションズ副事業本部長 P産業・産業事業部長の五十嵐人志氏、セイコーエプソン 執行役員 プリンティングソリューションズ事業本部長の吉田潤吉氏、YUIMA NAKAZATO 代表取締役社長 ファッションデザイナーの中里唯馬氏[クリックで拡大]

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