JFEスチールは、仮想空間上に構築したデジタルツイン技術を活用し、ラジアントチューブバーナーの短期開発に成功した。
JFEスチールは2024年6月19日、仮想空間上に構築したデジタルツイン技術を活用し、ラジアントチューブバーナーの短期開発に成功したと発表した。このラジアントチューブバーナーを東日本製鉄所(千葉地区)冷延工場で長期運用した結果、従来のラジアントチューブと比較して6倍程度の長寿命効果が見込まれるとともに、窒素酸化物(NOx)の発生量が少なく、省エネ化も実現していることが分かった。
ラジアントチューブバーナーとは、連続溶融亜鉛めっきラインや連続焼鈍ラインにおいて、鋼板の引張り強度や伸びなどの機械特性を調整するために鋼板を加熱する際に用いる設備。このバーナーは通常のバーナーとは異なり、燃料と空気が金属製のチューブ内で燃焼反応し、燃焼熱によって加熱されたチューブの輻射熱により鋼板を加熱する仕組みで、鋼板表面を高品質に保持可能なため、JFEスチールの焼鈍炉でも数多く採用されている。
一方で、ラジアントチューブバーナーはチューブ内という比較的狭い空間で燃焼反応が生じ高温になりやすいため、高温下にさらされることによるチューブ変形の抑制や低NOx化、高熱効率が求められていた。
そこで同社は、試験炉の燃焼実験から得られた試験データと物理モデルを基に、仮想空間上に試験炉を忠実に再現したデジタルツインを構築し、ラジアントチューブの炉内支持構造、チューブ形状、バーナー周り、伝熱促進体、熱交換器を独自に開発した。その結果、従来と比べて、長寿命(変形速度1/6)、低NOx(NOx発生量30%低減)、高効率(3%の省エネ化)を実現したラジアントチューブバーナーを開発した。併せて、従来と比べ約半分の期間での操業運用も実現している。
現実世界の物理システムやプロセスを仮想空間上(デジタル)に再現し、現実世界を忠実にシミュレートするデジタルツインは、Cyber Physical System(CPS)のコア技術だ。デジタルツインで得られた情報を制御システムに適用することで、一部の熟練オペレーターの操業と同等あるいはそれ以上の高効率な操業が常時可能になる。
さらに、デジタルツイン技術を設備設計プロセスに組み込み、現実世界では把握し得ない設備内部の状態を仮想空間上で可視化することで、多くの試作/試験が可能となり、開発期間の短縮化にも貢献する。
今後同社は、保有する技術や操業改善ノウハウをソリューションビジネス「JFE Resolus(レゾラス)」の商品として顧客に提供し、顧客とともに発展を目指していく考えだ。
なお、今回の開発成果は、日本伝熱学会に認められ、2023年度日本伝熱学会・技術賞を受賞した。日本伝熱学会・技術賞は、優秀な伝熱技術を開発した者に授与されるもので、JFEスチールの日本伝熱学会・技術賞の受賞は初となる。
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