中嶋氏はバッテリーを循環させるエコシステムに関する展望も語った。バッテリーが循環するには、新車で使用した後に取り出して、中古の車載用電池やインフラなどの電源としてリユースするという流れがある。そして最後にリサイクルするというエコシステムを作っていくことが非常に重要だと指摘した。
ただ、現状は日本で販売されたトヨタのHEVは75%が中古車として海外に輸出されている。2023年は32万台がモンゴルやニュージーランドに輸出されたという。EVでも同じ状況になれば、膨大な希少資源が海外に流出することになる。バッテリーのエコシステムの実現には、循環の流れを日本国内に作る必要があると中嶋氏は指摘した。
それを実現する方策が車電分離だ。バッテリーを自動車メーカーや販売店が所有し、ユーザーは電池を使った分だけ月々の料金を支払い、バッテリーを除いた車両価格で購入することもできるという構図だ。自動車メーカーは電池の流通を管理しやすくなり、海外に輸出する中古車には最適なバッテリーに載せ替えることもできるとしている。
車電分離を推進するには「自動車メーカーの間で互換性を持たせる必要がある」と中嶋氏は語った。車両への取り付け構造や電池パックの形状、通信コネクター、バッテリーの状態を監視するためのインタフェースなどの共通化が必要だ。
自動車業界全体で規格化を目指していくことも重要だという。「われわれだけで国内でバッテリーを循環させるのは無理だ。他の自動車メーカーや、さまざまな業種の企業と協力してスキームを作りたい。10年後、15年後にバッテリーが増えたときの処理を考えていくためにも、今から車電分離の実現に向けて議論していきたい」(中嶋氏)
性能が低下した車載用バッテリーは、系統電源や家庭用蓄電池で2次利用することで、再生可能エネルギーの普及に貢献する。
トヨタ自動車ではスイープ電源システムを開発。種類や容量、性能が異なる電池を直列につなぎ、それぞれの電池の接続と非接続をマイクロ秒で切り替えることで、個別の電池の充放電を最適に制御する技術だ。接続されている電池の中に劣化したものがあれば、それを非接続にして他の電池だけを使うことができる。バッテリーの状態のばらつきに関係なく、寿命まで使い切ることが可能になるという。
寿命まで使い切ったバッテリーをリサイクルするには、取り外しから輸送まで各作業の安全性確保や、サイズの規格化も含めた「取り外しやすさ」、解体しやすい構造であることなどが重要だとしている。ただ、現状では解体や熱処理のプロセスで排出するCO2を加味すると、リサイクル材料は新規材料よりもCO2排出量が増加する。
バッテリーを燃やさずに電解質を除去したり、リチウム化合物を最適な加熱条件で素材化したりするなどの低CO2排出のリサイクル技術がカギを握る。
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