阿部氏の戦略では、製造分野、ヘルスケア分野、サービス分野の成長市場に対して、強化した産業系プロダクト事業とインテグレーション事業を組み合わせたソリューションを展開するというアプローチになる。その代表例として、半導体製造、バッテリー製造、バイオ医薬製造、分子診断/個別化医療/低侵襲治療、サービス化の拡大、スマート/グリーンビルディングなどを挙げた。
半導体製造では、業界トップクラスのシェアを持つ測長SEMをはじめとする検査装置のデータを活用した生産性向上ソリューションを提供する。プロダクトとなる半導体製造装置の強みに、米国、韓国、台湾で大手顧客の近傍に置く協創拠点から得られる顧客データと、DSSセクター傘下のGlobalLogicの協力を得て開発したデータ統合プラットフォームによるデジタル化も掛け合わせる。その結果として、装置状態可視化や予兆診断にかかる時間を80%、データ統合ビュワーや断面自動計測にかかる時間を50%短縮することで、競合他社への差異化につなげる。
バッテリー製造では、他社に先行する異物検査装置をはじめとする検査/分析装置をベースにロボティクスSIとデジタルを掛け合わせて量産を効率化していく。ここで言うロボティクスSIをけん引するのが、2019年に買収した米国のJR Automationで、既に米国のMoxion Powerとの協創でバッテリーモジュールの量産ラインを構築するなどの実績がある。そして、デジタルに対応するバッテリーライフサイクルマネジメントについては、半導体製造と同様にGlobalLogicの協力を得る。
バイオテクノロジー関連では、バイオ医薬製造と分子診断/個別化医療/低侵襲治療に注力する。バイオ医薬製造では、日本トップクラスの実績を持つ培養槽などを核として、それにバイオ医薬品関連の法規制対応に関する知見やノウハウ、国内の医薬品分野で広く採用されているMES(製造実行システム)とLIMS(ラボ情報管理システム)をデジタル技術として掛け合わせる。分子診断/個別化医療/低侵襲治療は、日立ハイテクが手掛ける生化学/免疫分析装置やDNAシーケンサーなどの診断/治療装置と、粒子線治療システム、がん遺伝子検査パートナーとの協創によるAI(人工知能)診断などの組み合わせでがん治療の高度化に貢献する。
さまざまな産業機器の運用効率化に向けたサービス化の拡大では、空気圧縮機、マーキング、パワエレ/ドライブ、昇降機、業務用空調設備などCIセクターが豊富なインストールベースを有するプロダクトを対象に、これまで培ってきたドメインナレッジを生かしつつ、故障予兆保全や省エネ診断、部品交換レコメンドなどを可能にしていく。ここでも、GlobalLogicの協力を得て、プラットフォーム改善や組み込みソフトによるIoT(モノのインターネット)化などを図っていく考えだ。
スマート/グリーンビルディングの事例では、野村不動産グループが展開する「BLUE FRONT SHIBAURA」S棟に導入したビルIoTソリューション「BuilMirai」による、効率的なビル運用や省エネの成果を紹介した。
阿部氏は「CIセクターの強みはプロダクトにある。このプロダクトの競争力強化に向けた重点的な投資によって、プロダクトを中心としたサービスも伸びる。ただし、伸びる市場にフォーカスして、その市場成長を刈り取っていくためにはインテグレーション事業の強化も重要であり、差異化ポイントになる」と強調する。このインテグレーション事業の強化で重要な役割を果たすのが、DSSセクター傘下のGlobalLogicとの連携や、米国JR Automationというわけだ。
また、阿部氏は、CIセクターが新たな成長軌道を描く上で、DSSセクターやGEMセクターとの“クロスセクター”を作り出していくことの重要性も訴えた。「CIセクターはグローバルで事業を展開する顧客との接点を豊富に持ち、日立の中で現場の課題を最も把握している。その課題解決に向けて、生成AIやメタバースなどのデジタル技術を活用する際にはDSSセクターやGloablLogicを活用し、カーボンニュートラルや省エネといったグリーン化が関わる場合にはGEMセクターと連携する。両セクターと連携して面で攻めていくときには、CIセクターがリードしてその市場の成長を刈り取っていかなければならない」(同氏)としている。
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