生成AIがけん引するデータセンター市場でも、高精度タイミングデバイスの需要が拡大している。データセンターのサーバラック内には、サーバのマザーボードやAIの学習や推論の処理を担うGPUなどを搭載するアクセラレータカードに加え、ラック間をつなぐNIC(ネットワークインタフェースカード)、サーバ間をつなぐToR(Top of Rack)スイッチなどが組み込まれている。それぞれに搭載されるタイミングデバイスの数は、サーバのマザーボードが3〜5個、アクセラレータカードが4〜8個、NICが1〜3個、ToRスイッチが2〜4個となっている。さらに、データセンター間を結ぶための光モジュールや各種スイッチ、ネットワークセキュリティ装置、コアスイッチなどにも多数のタイミングデバイスが用いられる。
SiTimeのChorusは、シリコンMEMSチップとCMOSベースのアナログ回路チップを積層することで複数の高精度タイミングデバイスの機能を1つのパッケージに集積しており、タイミングデバイスの搭載数を減らすとともに、水晶を用いたタイミングデバイスよりも高い精度を実現できる。例えば、AIデータセンター向けのアクセラレータカードで4個のSoCを搭載する場合、それぞれに発振器を組み合わせるために4個の発振器が必要になる。Chorusは、1個のICから4つのSoCそれぞれにクロックを供給することが可能で、さらにこれら4つのクロックを同期させることも可能だ。
また、ルネサス エレクトロニクスやスカイワークス(Skyworks Solutions)などが提供する一般的なクロックジェネレータICは、水晶振動子との組み合わせが前提になっているが、ChorusはシリコンMEMS振動子としてパッケージに内蔵されている。このため、クロックジェネレータICと水晶振動子の間で起こるインピーダンスの不一致や回路基板の設計に起因するノイズカップリングなどの問題が起こらず、設計期間を短縮できるという。
現在、先行顧客にサンプル出荷中のChorusは「SiT91211」と「SiT91213」で、出力周波数範囲が1〜700MHz、プログラマブル出力数が差動×4/LVCMOS×8、周波数安定性が±20ppm/±50ppm、4mm角の24ピンQFNパッケージといった仕様は共通している。唯一位相ジッタ(標準)のみ、SiT91211が150fs、SiT91213が70fsで異なっている。
SiTimeはこれまでもクロックジェネレータ製品を手掛けてきたが、2023年に買収したインドのAura Semiconductorのポートフォリオを統合してラインアップを拡充することにより、今回あらためてChorusとしての発表となった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.