北海道大学は、短波赤外蛍光イメージングの医療応用に向けた蛍光色素の開発に成功した。生体深部の観測が可能になるため、がん診断やがん治療への応用が期待される。
北海道大学は2024年4月8日、短波赤外蛍光イメージングの医療応用に向けた蛍光色素の開発に成功したと発表した。生体深部の観測が可能になるため、がん診断やがん治療への応用が期待される。理化学研究所との共同研究による成果だ。
人が見ている光(可視光)は生体組織を透過しないが、波長1000nm以上の短波赤外領域の蛍光を利用すると、生体深部まで観測できる。米国食品医薬品局(FDA)では、短波赤外蛍光色素のうちインドシアニングリーン(ICG)の臨床使用を認めているが、励起波長は800nm未満に制限される。しかし生体深部での短波赤外蛍光イメージングでは、ICGより長い励起波長と発光波長を持つ有機色素が求められている。
今回の研究では、シアニン系色素のポリメチン鎖二重結合の長さを増やすと波長が長くなる性質を利用し、ICGを基に短波赤外蛍光を発する類縁体を開発した。特殊な化学合成法を用いてポリメチン鎖を延長し、922nmと1010nmの波長で発光するπ共役拡張型のICG類縁体ICG-C9、ICG-C11を合成した。
ICGとICG-C9、ICG-C11をベースとし、短波赤外領域で蛍光分子イメージングを実施するために短波赤外蛍光ラベル化剤を開発。ラベル化剤で修飾した抗体を用いて、生きたマウスで表面受容体と腫瘍血管系の可視化に成功した。これにより、乳がん腫瘍のマルチカラー短波赤外蛍光分子イメージングが可能であることが示された。
また、ICGとICG-C11を修飾した抗がん剤により、乳がん腫瘍の消失も観測できた。ICG-C9を結合した抗がん剤で乳がん細胞をラベル化し、短波赤外蛍光イメージングを実施したところ、38日間という長期間で乳がん腫瘍のイメージングに成功。非侵襲的に、腫瘍細胞が12分の1に縮小することが確認できた。
この成果は、ICGとICG-C9、ICG-C11が生体の非侵襲イメージングに有効であることを示唆する。今後、医療応用に向けた標準的な短波赤外蛍光色素として期待される。
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