ここ1〜2年で生成AI(人工知能)ブームが巻き起こりました。AIに指示を伝えることによって、わずか数十秒でコンテンツを生成できるようになりました。この生成AIの応用例として、現在主流なのは画像、文章、プログラムのソースコードの生成ですが、今後は機械設計の分野にも積極的に導入されていくと筆者は予想しています。例えば、「Text-to-CAD」というサービスでは、チャット感覚でAIに指示するだけで3Dの形状を作ってくれます。
こういった生成AIの技術は一見すると非常に便利なのですが、多くの人の反応を見てみると、「自分の仕事がなくなり、メシが食えなくなってしまうのでは?」と危機感を抱かれている傾向が強いように感じます。
では、このような未来に対し、製品設計と設備設計はどのように向き合えばよいのかについて、筆者なりの見解を述べたいと思います。
まず、製品設計についてですが、今後は「『何を作るのか、なぜ作るのか』を深く考えるスキル」がより一層重要になってくると思います。製品設計者からたまに聞くのは「今の会社の製品開発は企画がイケていない。とにかく高い性能を出そうと各メーカーが日々競っているけれど、顧客が本当に望んでいるのはそこではない」という主張です。機械の性能を向上させなくとも、機械の中にペットボトルのお茶を置くスペースを設けただけで顧客満足度が大きく向上したという話を聞いたことがあります。
近年は「単にモノを作って売れる」時代ではなく、「顧客への価値を提供するのが目的で、モノはあくまでもその手段である」といわれていますので、そのためのクリエイティブが今後の製品設計で求められていくでしょう。逆に、作るものが決まってしまえば、「その機能をどのように実装するか?」の部分は今後生成AIが徐々に役割を担うようになると思います。
一方の設備設計ですが、今後は「どのような仕様の生産設備が適しているかを提案できるスキル」が重要になってくると筆者は考えます。設備設計は現場の生産性を向上させるのが目的ですが、多くの場合は自動機の導入によって達成を試みようとします。ですが、現場によってはむしろ自動機を導入しない方がよいケースだってあるのです。
例えば、「恵方巻きの自動製造機」の需要はあるかといわれると、そこまで多くはないと思います。確かに、節分のシーズンでは恵方巻きの需要が上がるため、自動機を使わないと製造の人手が足りなくなることもあるでしょう。ですが、節分のシーズンが過ぎれば需要が減るため、機械の稼働率が極端に落ちてしまいます。オフシーズンの間、恵方巻き自動製造機は調理場の隅にただ置かれているだけの邪魔者になってしまいます。それどころか、機械はいざ使おうとしたときに不具合が出ないよう、定期的にメンテナンスをする必要があるため、稼働させずにただ置いておくだけでもコストがかかります。
そうしたこともあり、こういった現場で求められるのは自動機よりも、「人手での作業の効率を上げるための治具」だったりするわけです。このように、現場の状況や予算などから総合的に判断し、生産設備を提案できるスキルが今後ますます強く求められると考えます。
そして、どちらの設計分野においても共通していえる重要なポイントは、“AIの技術はあくまでも皆さんの味方である”という考え方です。AIは仕事を奪うものではなく、人間が得意な領域とAIが得意な領域との間の境界線をはっきりさせてくれる存在だといえます。こうした考えに基づき、むしろAIを積極的に活用していくことが、製品設計と設備設計のこれから、ひいては未来のモノづくりに求められるのではないかと思います。
いかがでしたでしょうか? “製品設計と設備設計の違い”について、ご理解いただけたでしょうか。今回の内容が皆さまの日頃の業務やキャリア形成の一助になれば幸いです。最後までお付き合いくださりありがとうございました。(完)
実は、既に次の連載についても企画が進行しております。今回の内容をイントロダクションと位置付け、設備設計現場のあるあるトラブルとその解決アプローチを解説する新シリーズにつなげていきたいと思います。ぜひご期待ください! (新シリーズへ続く)
りびぃ
「ものづくりのススメ」サイト運営者
2015年、大手設備メーカーの機械設計職に従事。2020年にベンチャーの設備メーカーで機械設計職に従事するとともに、同年から副業として機械設計のための学習ブログ「ものづくりのススメ」の運営をスタートさせる。2022年から機械設計会社で設計職を担当している。
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