ところで、連載第94回の中で、カナダ連邦政府が2019年4月1日に施行した、「自動意思決定指令」(関連情報)を取り上げた。表5は、その後の同指令およびAI利用に関する法令/ガイダンス類の取り組み状況を整理したものである。
2023年9月6日、カナダ政府は、「生成人工知能(AI)の利用に関するガイド」(関連情報)を公表した。本ガイダンスは、生成AIツールを利用/調達する連邦政府機関向けに基本的なガイダンスを提供することを目的としており、以下のような構成になっている。
上記のうち「生成AIとは何か?」について見ると、生成AIガイドでは、「話し言葉の意味の理解、行動学習、問題解決などを達成するために、生物学的知力を通常必要とするようなタスクを遂行する情報技術」という自動意思決定指令のAIの定義に準拠し、生成AIについて「テキスト、音声、コード、映像、画像などのコンテンツを生産するAIの一種であり、そのコンテンツは、プロンプト(Prompt)を構成するユーザーのインプット情報に基づいて生成される」と定義している。生成AIツールの具体例として、ChatGPTやBing Chatのようなチャットbot、テキストプロンプトに基づいて生成するGitHub Copilot、テキスト/画像プロンプトから画像を生成するDALL-EやMidjourney、Stable Diffusionを挙げている。
そして、生成AIが実行/サポートできるタスクとして以下のような例を挙げている。
次に「推奨されるアプローチ」について見ると、連邦政府機関が、公的な信頼性を維持し、生成AIツールの責任ある利用を保証するために、表6に示すような“FASTER”原則に準拠すべきだとしている。
さらに、「ポリシーの考慮事項とベストプラクティス」の「プライバシーの考慮事項」では、プライバシー法(関連情報)の要求事項に準拠して以下のような点を指摘している。
技術的観点からは、非識別化(関連情報)や合成データ(関連情報)といったプライバシー強化技術(PETs)(関連情報)を紹介している。カナダでは、PETs関連スタートアップ企業が続々と登場しており、要注目の技術領域となっている。
上記の「ポリシーの考慮事項とベストプラクティス」のうち、「潜在的課題とベストプラクティス」では、7つのテーマごとに、[課題]、[連邦政府機関内の全ての生成AIユーザー向けのベストプラクティス]、[生成AIツールを展開する連邦政府機関向けの追加的ベストプラクティス]を提示している。
このうち、特に「環境的影響度」についてみると、以下のように記述している。
なお、カナダ連邦政府は、グリーン調達ポリシー(関連情報)を策定/運用しており、生成AIシステムの調達においても、このポリシーを参照することが必要になる。特に保健医療分野においては、カナダ保健省が、同省独自の持続可能な開発戦略(SDGs)(関連情報)を策定/運用しており、生成AIシステムを利用した医療機器やデジタルヘルス製品/サービスの環境的影響度評価/対応状況も、サステナブル調達/SDGsの観点から継続的にモニタリングされることになる。
カナダでは、本連載第100回で取り上げた北欧諸国と同様に、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)を超越したSX(サステナビリティトランスフォーメーション)を巡る国際競争が繰り広げられている。医療機器/デジタルヘルス企業も、新たな市場機会を創出する契機として、生成AIのサステナビリティ対応動向を捉えるべきだろう。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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