カナダが目指す持続可能な生成AIイノベーションの枠組みづくり海外医療技術トレンド(104)(1/3 ページ)

本連載第46回でカナダのケベック州のAIハブ都市であるモントリオールを取り上げ、第94回ではカナダ当局の生成AI法規制動向を取り上げた。今回は、カナダにおける生成AIイノベーションを巡るデータセキュリティ、プライバシー、サステナビリティなどのガバナンス動向に焦点を当てる。

» 2024年02月16日 08時00分 公開
[笹原英司MONOist]

 本連載第46回でカナダのケベック州のAI(人工知能)ハブ都市であるモントリオールを取り上げ、第94回では、カナダ当局の生成AI法規制動向を取り上げた。今回は、生成AIイノベーションを巡るデータセキュリティ、プライバシー、サステナビリティなどのガバナンス動向に焦点を当てる。

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大手プラットフォーム事業者のAIデータセンターが集積するケベック州

 2023年11月22日、Microsoftは、今後2年間、総額5億米ドルをカナダのケベック州に投資して、現行のデジタルインフラストラクチャフットプリントを拡張し、大規模なクラウドコンピューティングおよびAI向けのインフラストラクチャを構築すると発表した(関連情報)。Microsoftは、2016年、ケベック州に大規模クラウドデータセンターを開設し、事業を拡大するとともに、デジタルヘルス、AI、サイバーセキュリティといった新規技術開発を支えるICT基盤を提供してきた。今後は、2030年までに「Carbon negative」「Water positive」「Zero waste」を達成するというMicrosoftのサステナビリティ目標に向けて、環境に配慮した持続可能性のあるデジタルインフラストラクチャの構築を進めるという。

 再生可能エネルギー発電比率約99%のケベック州には、AWS(関連情報)、Google Cloud(関連情報)、Oracle(関連情報)など、大手プラットフォーム事業者のデータセンターが集積している。加えて、Meta/Facebookが、AIの基礎研究センターをモントリオールに開設/運営する(関連情報)など、ケベック州は、グローバルなAIハブ機能も担っている。

 ケベック州だけでなく、オンタリオ州、ブリティッシュコロンビア州、アルバータ州など、カナダ各地で、同様のAIプラットフォーム強化の動きが拡大しており、MedTech/HealthTech/DeepTechのスタートアップ企業にとっても追い風となっている。

カナダのサイバーセキュリティ当局が生成AI向けガイダンスを公表

 2023年7月14日、カナダ連邦政府傘下のカナダ・サイバーセキュリティ・センターは、「生成人工知能(AI) -ITSAP.00.041」と題するセキュリティガイダンスを公表した(関連情報)。

 本ガイダンスでは、生成AIについて、モデルに注入された大規模データセットからのデータモデリング機能により新たなコンテンツを生成するAIのタイプの1つと定義している。伝統的なAIシステムが、パターンを認識したり、既存のコンテンツを分類したりできるのに対して、生成AIはテキスト、画像、音声、ソフトウェアコードなどさまざまな形態で新たなコンテンツを創る出すことができる点を特徴としている。

 そして、生成AIの活用領域として、医療を筆頭に以下の7領域を挙げている。

  • 医療:医療提供者がより迅速に診断する際に支援する。AIは、パーソナライズされた治療計画を当たり前にする。治療法ターゲットや新薬候補を実現するのに活用することができる
  • ソフトウェア開発:ソフトウェア開発者によるコード生成を可能にし、デバッグ作業を支援し、コードスニペットを提供する。これにより、ソフトウェア製品の開発やリリースを加速させるのに役立つ可能性がある
  • オンラインマーケットプレース:チャットbotや会話エージェントにおいて、人間のような反応を生成し、組織がカスタマーサービスを向上させ、サポート費用を削減するのに役立つ可能性がある
  • ビジネス:既存/見込みクライアント向けにパーソナライズされた顧客コミュニケーションを構築するだけでなく、顧客行動を予測するための予測販売モデリングを生成する
  • 出版メディア:コンテンツクリエイターが、マーケティングキャンペーン、広告、テレビ、動画の制作において、固有のアウトプットを生産することを可能にする。オンデマンドコンテンツを、より少ないリソースで迅速に生成して、著しい費用削減につなげることができる
  • 教育:教育者が、個々のパフォーマンス、ニーズ、関心に合わせて、学生向けにパーソナライズされた学習計画を作成することを可能にする。これにより、教師が、学生に対するサポートを拡大するのに役立つ可能性がある
  • サイバーセキュリティ:ランサムウェアおよびその他の攻撃に対するサイバー防衛ツールの強化を促進する。潜在的脅威を特定し、悪意のない活動を除外することによって偽陽性を最小化するために、サイバーセキュリティ実務家が、より簡単に大規模データセットをスキャンできるよう支援する

 これらのように潜在的な市場機会を示した上で、表1に示す通り生成AIのセキュリティリスクを挙げている。

表1 表1 生成AIのセキュリティリスク[クリックで拡大] 出所:Canadian Centre for Cyber Security「Generative artificial intelligence (AI) -ITSAP.00.041」(2023年7月14日更新)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 生成AIのリスクを最小化するために、組織は表2に示すような対策をとることができるとしている。

表2 表2 組織が生成AIのリスクを最小化するための対策[クリックで拡大] 出所:Canadian Centre for Cyber Security「Generative artificial intelligence (AI) -ITSAP.00.041」(2023年7月14日更新)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 他方、個人に対しては、以下のような対策をとることができるとしている。

  • コンテンツの検証
  • 基本的なサイバーセキュリティ・ハイジーンの実践
  • ソーシャルエンジニアリングに対する暴露やビジネス電子メール侵害の抑制

 本ガイダンスでは、最後に、表3に示すような生成AIツール利用時のセキュリティ保護策を提示している。

表3 表3 生成AIツール利用時のセキュリティ保護策[クリックで拡大] 出所:Canadian Centre for Cyber Security「Generative artificial intelligence (AI) -ITSAP.00.041」(2023年7月14日更新)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 なおカナダ・サイバーセキュリティ・センターは、2023年11月26日に米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)と英国国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)が共同で発表した「セキュアなAIシステム開発向けガイドライン」(関連情報)に参画しており、翌27日には、同ガイドラインをカナダ国内向けに公表している(関連情報)。

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