これらの優先領域に加えて、HHSデータ戦略では、以下の通り、2つのユースケースを挙げている。
HHSは、がん死亡率を25年以内に半減させるというムーンショット目標に向けたがんとの戦いを促進するために、データの有用性を最大化してきた。HHSは、研究を通した標準化のプラクティスとして、プライバシーを保護した安全な保健医療データの共有を設定した。HHSは、がんに対する迅速な進歩を達成するために、利用可能なデータの研究者による共有/利用を促進している。
表1は、ユースケースAのイニシアチブを整理したものである。
HHSは、ハードニングとレジリエンス、最新の脅威、インシデント管理のニーズ、配送システムの状況、対応活動を追跡するオールハザード型の状況意識/対応管理に関するほぼリアルタイムの情報管理エコシステムを設定した。そのシステムは、保健福祉サービス全体に渡って、調整されたエコシステムや政府横断的な対応向けに州/地域レベルまで掘り下げてつなぐ。
表2は、ユースケースBのイニシアチブを整理したものである。
ところで、日本が提唱してきたICT政策に、G20大阪サミットで盛り込まれた「DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)」(関連情報)や、G7広島サミットで盛り込まれた「広島AIプロセス」(関連情報)がある。EUと米国の間では、保健医療分野における越境データ流通や責任あるAI利用に向けた動きが顕在化している。
例えば、前述のHHSの「ユースケースA:がんムーンショット」に関連して、欧州連合(EU)では、本連載第83回で触れたように、欧州保健データスペース(EHDS)(関連情報)の活用領域として、「欧州がん撲滅計画」(関連情報)に代表されるがん領域に焦点を当ててきた。また、HHSの「責任あるAIの活用」に関連して、EUでは、本連載第102回で触れたように、2023年12月9日、欧州連合理事会と欧州議会の間で、AI(人工知能)法提案に関する暫定合意が成立し(関連情報)、現在、法施行に向けた最終作業が進んでいる。
このような動きと並行して、2023年5月17日には、EUと米国が共同で、「EU・米国間ヘルスタスクフォース」を創設することを表明している(関連情報)。そこでは、HHSデータ戦略のユースケースでも提示された「がんムーンショット」や「準備/インシデント対応」が、環大西洋レベルの優先テーマとなった。また、国際間連携に不可欠な個人データの越境移転については、本連載第88回で触れたように、環大西洋データプライバシーフレームワーク(通称プライバシーシールド2.0)の実現に向けたEUと米国間の交渉が進んでおり、2023年7月10日には、欧州委員会が、同フレームワークの十分性認定採択を公表している(関連情報)。
今後、EUと米国が、責任あるAI利用を前提とした保健医療データの越境流通によるメリットと流通拡大に伴うプライバシー/セキュリティのリスクのバランスをどう図っていくのか、その動向が注目される。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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