どうやら日本の製造業における固定資産の金額は、近年やや停滞気味のようです。果たして、他の国々と比較すると、どのような水準にあるのでしょうか?その水準を国際比較して確認してみましょう。
図2が主要先進国における製造業の労働者1人当たり固定資産の推移です。日本(青)はアップダウンはありつつも全体的には増えていますが、他の主要先進国と比較するとかなり高い水準だと分かりますね。途中から米国や韓国に抜かれていますが、ドイツやフランスと比較するとかなり高い水準を維持しているようです。
もう少し最新の状況を国際比較してみましょう。図3がOECD各国の労働者1人当たり固定資産の比較です。
日本は239.833ドルで、OECD27カ国中6位、G7参加国中2位と先進国でもかなり上位に位置すると分かります。投資で蓄積した固定資産の価値が、世界で指折りの水準に達しているということです。
蓄積された固定資産が、どれだけ生産性向上に役立っているのかとても気になるところです。最後に、労働者1人当たりの固定資産とGDP(付加価値)の散布図でそれらをまとめて確認しましょう。
図4が生産性を表す労働者1人当たりのGDPを縦軸に、労働者1人当たりの固定資産を横軸に取った場合の各国の水準をプロットしたものです。注目していただきたいのが緑色の線です。労働者1人当たりGDPと労働者1人当たり固定資産が、ほぼ1:2になる点を通っていますね。少し難しい言葉で言えば、これは切片をゼロとして最小二乗法で求めた近似直線です。要するに、各国のGDPの規模を示す円はおおむねこの線に沿って分布している、という傾向を表現しています。
これは、投資により蓄積した固定資産が多いほど生産性が高いという相関関係を示します。稼ぎ出す付加価値(フロー)が、蓄積した固定資産(ストック)の約半分という関係になっているのがとても興味深いです。
日本の製造業はどちらの水準も先進国では高い方に位置します。ただし、よく見ると円はこの緑色の線よりも下側にあります。つまり、固定資産は多く蓄積されているけれども、その水準に見合う付加価値が稼げていないということです。違う言い方をすれば、投資に対する生産性向上の効率が悪いのです。
日本のポジションを見ると、固定資産はドイツやフランス、英国などよりもかなり多く保有しています。ですが、生産性は同じくらいかやや劣る水準です。つまり、ドイツやフランスは、それほど投資を蓄積していなくても付加価値を稼げている、効率の良い事業展開ができていることになりますね。日本は設備に頼った事業ばかりになってしまっている、ともいえるかもしれません。
日本の製造業は過剰設備の状態にあるとも言われています。相対的に需要よりも供給力が大きく、価格競争ばかりが続いているのは私も当事者として痛感するところです。
今回見た結果から考えると、設備に頼った安さと規模を追う事業ばかりではなく、付加価値の高い事業を織り交ぜていく必要性があるようにも見受けられます。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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