そして新規医療機器開発促進の観点から、デジタルヘルスロードマップの中で注目されているのが、「5. 全ての人に対して、デジタルヘルスイノベーションからの便益を保証する」の「5-6. 早期アクセスに対する償還」で例示された経済インセンティブプログラムの「Prise en charge anticipee numerique (PECAN)」(関連情報)である。
PECANは、2023年4月にスタートしたデジタル医療機器(DMD)向けの保険償還を加速させるための新たな手法であり、処方者が、この先進的な償還を受ける資格があるデジタル医療機器を認識している点を保証する作業を通じて構築されてきた。PECANでは、以下のようなソリューションを対象としている。
そして、申請する医療機器メーカーに対して、以下の要件を全て満たすことを求めている。
これらの要件を踏まえた上で、PECANは以下のような手順で行われる。
本連載第69回で触れたように、EU域内では、医療機器規則(MDR)や体外診断用医療機器規則(IVDR)が一律適用されるが、医療機器に対する償還や経済インセンティブの仕組みについては、各国・地域の判断に委ねられている。
そこでEU域内各国では、MDR/IVDRの国内対応と並行して、デジタルヘルスイノベーションの促進策として、新規ソリューション向けに経済インセンティブメカニズムを導入する動きが顕在化している。その中で先行している例が、ドイツのDigitale Gesundheitsanwendungen(DIGA)である(関連情報)。現行のDIGAでは、医療機器のリスクのクラスをIまたはIIaに限定しているが、フランスのPECANの場合、クラスに関係なく、申請/承認されれば、償還という経済インセンティブを享受できる仕組みになっている。
EUレベルで、EHDSの発効に向けた最終協議が進む中、新規デジタルヘルスソリューションの市販前申請を巡る各国/地域間の競争も激化している。他方、本連載第71回で触れたように、米国食品医薬品局(FDA)も、医療機器規制改革や海外企業参入促進策を積極的に進めている。
このような状況の中、EUでは、欧州連合理事会と欧州議会の間で、AI(人工知能)法提案に関する暫定合意が成立した(関連情報)。AI法がEU全体レベルの統一基準となるまでには時間を要するが、各国単位で見ると、AIを利用した新規デジタルヘルスソリューション開発を巡る競争は、2024年以降一気に加速しそうだ。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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