経済インセンティブで攻めるフランスのデジタルヘルス戦略海外医療技術トレンド(102)(2/3 ページ)

» 2023年12月15日 07時00分 公開
[笹原英司MONOist]

デジタルヘルスイノベーションを加速させるロードマップを設定

 その後2023年5月17日、フランスの保健・予防省と連帯・自立・障害者省は、「2023〜2027年デジタルヘルスロードマップ」(関連情報)を発表した。本ロードマップは、公的機関、ユーザー代表/市民、医療専門家、医療提供者、デジタルヘルス企業の間の活動や協力のための新たなフレームワークと位置付けられており、その策定に当たっては、保健・予防省傘下のデジタルヘルス代表部(DNS)が、デジタルヘルス庁(ANS)、国民健康保険基金(CNAM)およびその他の関係機関と連携して調整作業を行った。

 このロードマップは、コロナ禍の教訓を踏まえた文脈で策定されており、ポストコロナ時代において、フランス市民や医療専門家が直面する課題への対応策(例:継続的な医療の供給を実現する新たな欧州のサービス)を提供するものである。

 図3は、デジタルヘルスロードマップで設定された4つの主軸を示している。

図3 図3 「2023〜2027年デジタルヘルスロードマップ」における4つの主軸[クリックで拡大] 出所:Ministere de la Sante et de la Prevention「Digital Health Roadmap 2023-2027」(2023年5月17日)

 ここでは、「予防」「患者のケア」「医療へのアクセス」「支えとなるフレームワーク」の4つのフォーカス領域の下で、以下の通り、計18の優先項目、計65の目標を設定している。

  • 予防(優先項目:5、目標:20):
    予防策を開発し、人々が自分自身の健康に責任を負うよう奨励する
    • <優先項目1>自分の健康を管理するために、毎日の生活でMon espace santeを利用する
      • 目標1-1. Mon espace santeを定着させる
      • 目標1-2. 市民向けのメッセージシステムを通して処方箋を送付する
      • 目標1-3. 子どもの健康記録
      • 目標1-4. 個人向けに医療ポータルを接続する
    • <優先項目2>パーソナライズされた予防策の開発
      • 目標2-1. Mon espace santeにおけるパーソナライズされた予防策
      • 目標2-2. 重要な年齢における健康診断
      • 目標2-3. 医療専門家向けの予防ソフトウェア機能
      • 目標2-4. 環境衛生
    • <優先項目3>医療と自分の健康データの制御における積極的な役割を、みんなに与える
      • 目標3-1. データ交換を有するアプリケーションのカタログ
      • 目標3-2. Mon espace santeへの一時的なアクセス
      • 目標3-3. データアクセスの制御
    • <優先項目4>全ての市民、特に最も脆弱な状況にある人々に対してデジタルヘルスの有効活用を支援する
      • 目標4-1. デジタルヘルスやデジタルインクルージョンに対する支援
      • 目標4-2. デジタル仲介者のトレーニング
      • 目標4-3. 介護者に対する権利の付与
    • <優先項目5>全ての人に対して、デジタルヘルスイノベーションからの便益を保証する
      • 目標5-1. 共同設計
      • 目標5-2. 大きな課題
      • 目標5-3. 臨床的・経済的評価
      • 目標5-4. CEマーキング
      • 目標5-5. 臨床試験
      • 目標5-6. 早期アクセスに対する償還
  • 患者のケア(優先項目:5、目標:16):
    全ての医療専門家のために時間を開放し、患者ケアを改善するためにデジタル技術を利用する
    • <優先項目6>処置する患者の病歴に対する専門家のアクセスの実現
      • 目標6-1. Mon espace santeに関する専門家の相談
      • 目標6-2. 画像リソースへのアクセス
      • 目標6-3. MyHealth@EU
    • <優先項目7>医療専門家が日常的に利用するツールにおけるコアサービスの統合と人間工学の改善
      • 目標7-1. 専門家が経験するデジタル上の不備の解明
      • 目標7-2. HOP’SUN
      • 目標7-3. 病院における管理プロセスの簡素化とデジタル化
    • <優先項目8>専門家向けサービスパッケージ、電子処方箋、医療専門家向けのセキュアな特定手段の投入
      • 目標8-1. 専門家向けサービスパッケージのためのポータル設置
      • 目標8-2. 専門的なツール向けのMon espace santeへのアクセスのための新たなインタフェースの導入
      • 目標8-3. 確立したコアサービスであるPro sante Connect(OpenIDベースの医療専門家向けID認証)のAssurance Maladie(フランスの健康保険)サービスへの統合
      • 目標8-4. デジタル処方箋
      • 目標8-5. 設定における2要素認証の投入
    • <優先項目9>医療プログラムの地域調整向けツールの簡素化
      • 目標9-1. 地域のデジタルサービス提供の最適化
      • 目標9-2. E-parcours
      • 目標9-3. インスタント・セキュア・メッセージングシステム
    • <優先項目10>医療専門家や医療系社会福祉ワーカー向けのデジタルトレーニングや支援の改善
      • 目標10-1. 医療専門家向けの初期デジタルトレーニング
      • 目標10-2. 医療専門家向けの継続デジタルトレーニング
  • 医療へのアクセス(優先項目:4、目標:11):
    人々および紹介する専門家のために医療へのアクセスを改善する
    • <優先項目11>地域を越えた保健・医療供給に関する患者・専門家向け情報の強化
      • 目標11-1. Sante.frにより調整された信頼できる保健医療情報
      • 目標11-2. 明確な医療提供
      • 目標11-3. 一般医(GP)へのアクセスの促進
    • <優先項目12>規制された倫理的フレームワーク内における遠隔医療利用の開発
      • 目標12-1. 低吸収域における遠隔医療
      • 目標12-2. 優先順位の高い医療プログラムを支援する遠隔医療
      • 目標12-3. 信頼できる遠隔医療ツール
    • <優先項目13>医療規制と救急医療向けのデジタルプラットフォームの促進と相互接続
      • 目標13-1. 医療アクセスサービス(SAS)
      • 目標13-2. SI-SAMU(フランスの公的救急医療サービス)プログラム
      • 目標13-3. 医療搬送に関するCNSワーキンググループの設置
    • <優先項目14>Carte Vitaleアプリケーションと国民保健ID(INS)の広範囲な促進
      • 目標14-1. Carte Vitaleアプリケーション
      • 目標14-2. アイデンティフィケーション警戒と国民保健ID
  • 支えとなるフレームワーク(優先項目:4、目標:18):
    医療における用途やデジタルイノベーションの開発に有利なフレームワークの実装
    • <優先項目15>施設におけるサイバー、ホスティングに関する主権、将来の保健医療危機に対するレジリエンスの大幅な改善
      • 目標15-1. CAREプログラム
      • 目標15-2. サイバーガバナンスの改善
      • 目標15-3. サイバーに関する意識の向上と演習の実施
      • 目標15-4. 施設におけるデジタル/サイバーリソースの持続可能性の改善と保証
      • 目標15-5. 医療データのホスティング主権の改善
      • 目標15-6. 将来の危機に対する準備
    • <優先項目16>医療ステークホルダーが利用するソリューションのコンプライアンスを保証することにより、セクターごとに仕様フレームワークを共同構築することの一般化
      • 目標16-1. フレームワークの共同開発
      • 目標16-2. デジタルヘルス企業の支援
      • 目標16-3. フレームワークのコンプライアンス保証
      • 目標16-4. Segur Numeriqueプログラムのwave 2による継続
      • 目標16-5. デジタルヘルス企業やステークホルダーの成熟度に関するモニタリング主体
    • <優先項目17>デジタルセクターに対する人材の魅了づけ
      • 目標17-1. 専門職と要件の緻密な計画
      • 目標17-2. デジタルヘルスの支払規模
      • 目標17-3. デジタル人材:フランス医療における差別化
    • <優先項目18>デジタルヘルス研究と保健医療データの2次利用の開発
      • 目標18-1. データ2次利用のための戦略
      • 目標18-2. データウェアハウス
      • 目標18-3. MyHealth@EUデータ
      • 目標18-4. デジタルヘルスにおける研究開発

 なお、今後のロードマップの進捗状況については、2年ごとにデジタルヘルス委員会がチェックするとともに、欧州および国際的なデジタルへルスの今後の取り組みに合わせていくとしている。特にフランスは、本連載第70回で取り上げた欧州連合(EU)レベルの「欧州保健データスペースに向けた共同行動(TEHDAS)」(関連情報)や、「2021-2027年EU4Healthプログラム」(関連情報)などを通じて、デジタルヘルス領域における具体的なユースケースを提供してきた経緯があり、欧州および域外におけるヘルスデータ2次利用動向を占う上でも注目される。

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