金沢大学は、乳がんの再発を起こす原因細胞を取り出すことに成功した。心不全の治療に用いる強心配糖体を術前化学療法に加えることで、原因細胞の治療抵抗性が弱まり、死滅することが明らかとなった。
金沢大学は2023年11月16日、乳がんの再発を起こす原因細胞を取り出すことに成功したと発表した。強心配糖体を用いると死滅することから、乳がん再発を予防する新たな治療法の開発が期待される。帝京大学、東京大学、京都大学らとの共同研究による成果だ。
乳がんは、女性が罹患(りかん)する最も多いがんだ。近年は治癒を見込める症例が増えてきているが、手術前に抗がん剤などで全身治療した後、手術で切除した乳腺組織内にがん細胞が残存する症例では、転移再発しやすい。
今回の研究では、予後不良の乳がんとして知られる、トリプルネガティブ乳がん患者由来のがん組織を用いて、がん幹細胞集団の中から、最も治療抵抗性を示す細胞亜集団を探索した。
細胞膜タンパク質ニューロピリン1(NRP1)やIGF1受容体(IGF1R)への抗体を用いてがん幹細胞を濃縮した後、1細胞ごとに発現している遺伝子を解析。NRP1やIGF1R抗体で濃縮されたがん幹細胞集団は、5つのクラスタに分類できた。そのうち、クラスタ1と2に分類されたがん幹細胞は、トリプルネガティブ乳がんが発生するとされる乳腺前駆細胞と似た性質を示したことから、「祖先がん幹細胞」と名付けた。
この祖先がん細胞をさまざまな手法で解析したところ、抗がん剤に対して最も治療抵抗性を示した。祖先がん幹細胞は細胞膜タンパク質のFXYD3を高発現しているため、FXYD3に対する抗体で取り出すことができる。
FXYD3は、細胞膜上でNa-Kポンプを保護する。そこで、Na-Kポンプの阻害剤である強心配糖体を投与すると、祖先がん細胞の治療抵抗性が弱まり、抗がん剤で死滅することが明らかとなった。また、術前全身治療後の乳がん組織に残存したがん細胞に、FXYD3が強く発現していた。
これらの結果から、心不全の治療に用いる強心配糖体を加えた術前化学療法により、トリプルネガティブ乳がんの再発を予防できる可能性が示された。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.