ここからは建設業における、デジタルツイン/メタバースを使ったCPS(Cyber-Physical System)活用の動向について触れたい。先だって、「土木」と「建築」の言葉の意味を大別したい。土木はトンネルと橋梁、ダム、河川、都市土木、鉄道、高速道路などを作る建設工事を、建築はオフィスとマンション、商業施設、工場、病院や学校などを作る建設工事を意味する。建築と土木でデジタル化の構造が異なるため、まず共通の動向について触れた上で、建築/土木でのそれぞれの論点や事例について紹介したい。
建設業では人手不足と生産性が喫緊の課題となっている。特に熟練技能者の高齢化/退職が進んでおり、今後建設需要に対して、労働者が圧倒的に不足することが予測されている。技能労働者340万人のうち、今後10年間で離職する50歳以上の労働者が110万人にものぼるという試算が出ているのだ。「きつい、危険、汚い」仕事という3Kのイメージから建設業界で働こうと考える若者は少ない。
また、2024年4月より労働基準法の改正に伴い建設業における労働時間の上限規制が施行されることとなっており、それまでに建設各社は急速な働き方改革が求められている。いわゆる「2024年問題」だ。さらにコロナ禍で従来の三現主義(現地/現物/現場)を見直し、デジタル活用との組み合わせが余儀なくされた。これら待ったなしの状態の中で、デジタルツイン×メタバースをはじめとしたデジタル投資が急速に進んできているのだ。
建設業共通の課題は、ステークホルダが多様であることだ。まず、プロジェクトの予算を有しているゼネコンと、それぞれの実施工を担うサブコン/施工会社が別の主体となっている。サブコン/施工会社には中小企業も多く、デジタル投資の余裕が十分ないことが多い。このことから、デジタル投資やロボット投資などが進みづらいことが課題である。
一方で大手ゼネコン企業は、自社でデジタルや自動化の仕組みを構築しており、それを施工会社やサブコンへ提供するケースが多い。建設業におけるBIM/デジタルツイン活用やロボット導入などにおいても、ゼネコン側が投資をしてプロジェクトの中でサブコンなどに提供する形で展開が進むこととなる。
建築領域ではBIMを活用した3D設計や施工シミュレーション、維持管理の最適化が図られている。BIMとは「Building Information Modeling」のことで、建物の3Dデジタルモデル(意匠方言/構造設計など)に、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加した建築物のデータベースであり、建築の設計から施工、維持管理までのあらゆる工程で情報活用を3Dで行うためのソフトウェアだ。
建設業においては「設計」→「施工」→「維持管理」の各工程において、BIMを用いたデジタルツインにより、工程設計の効率化や現場の安全性/生産性向上が図られている。具体的には顧客ニーズに合わせた設計BIMを作成し、より具体的な工事を行うために生産設計を行い、施工BIMへ反映する。設計と施工会社が別の場合は、施工会社が引き継いで施工BIMを更新する流れになる。施工BIMで詳細なモデル化ができるため、実施工結果との比較で検査が可能となる。引き渡し後もBIMを活用することで維持管理/メンテナンスを効率的/高精度に実施できる。
そのため、分離発注となる土木と比較し、設計―施工―維持管理と一気通貫でゼネコンなどがBIMなどのデジタルツインを活用して実施するケースも多い。業界全体としてアナログ、2Dでの業務から、誰でも判別でき意思決定がしやすい3Dモデルを通じた業務プロセスへと変革が求められているのだ。BIMのソフトウェアとしては後述のデジタルツインプラットフォーマーのDAPSAの一角のAutodeskのRevitや、Dassaultとともに、Graphisoft社のアーキキャドなどが普及している。その上でゼネコンなどのユーザー企業が自社ノウハウや経験を生かしてこれらを使いこなした取り組みを展開している状況だ。
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