ここで施工領域において効果的にデジタルツインの取り組みを行っている事例として大林組の取り組みを紹介したい。1936年設立の大手ゼネコン企業である大林組は、下記にて紹介する建築とともに土木分野や、別途共有するスマートシティ都市づくりのそれぞれの領域においてCPS(デジタルツイン×メタバース)の取り組みを展開している。
CPS/デジタルツインを経営の基軸にすることを宣言していることもあり、全社の取り組み推進に向けた経営陣の協力や理解を得られている。このことが取り組みを後押しする大きな要因ともなっている。ロボティクス生産本部が2019年4月に、DX本部が2022年2月から立ち上がっており、各部門の取り組みをより推進し、強化をしていく方針である。
大林組は建築領域において、施工をデジタルツイン化する「4D施工管理支援システム」やビジュアル工程管理システム「プロミエ」、デジタルツインアプリ「CONNECTIA」(コネクティア)を展開している。従来の建設業界では、3Dの完成形モデルを投影しつつ施主との合意形成を行う取り組みを進めてきた。これはいわば、完成形のデジタルデータを活用するという意味で「静的」なデジタルツイン活用だ。
その一方で大林組は、今後の業界では「動的」なデジタルツインが重要になると見る。建築物の完成形モデルにはない、施工時の地形データや施工機材の稼働情報、足場、人の動きなどのデータを踏まえたデジタルツインだ。BIM/CIMなど設計時のデジタルツインだけでなく、環境データや人/重機の情報など施工中のデータを反映し、これに時間軸の情報を付加する。こうすることで、動的デジタルツインの整備を図る。実際に現場に行かずに遠隔で現場管理ができる、蓄積したデータによる施行計画のシミュレーションが行えるなど、さまざまな価値が生まれる。
大林組の施工4Dデジタルツインの事例が下写真の「エスコンフィールドHOKKAIDO(北海道日本ハムファイターズの新本拠スタジアム)」の建設だ。コンクリート躯体や鉄骨屋根、ガラス壁などのBIM/CIMの設計情報とともに、周辺地盤の点群データ、クレーンなどの施工用機械のデジタルツインを統合して現場のデジタルツインを実現した。
クレーンに搭載されたセンサーを通じて傾きや位置、回転などの動作情報をセンシングし、リアルタイムにデジタルツインに反映することで実機と連動させている。これによりクレーンなどの機器の稼働状況(稼働率など)の可視化ができ、生産性分析や、再配置検討に繋げている。加えて、クレーンなど機器の動作・稼働状況や、人の作業状況から、BIMで進捗情報の視覚的管理が可能となっているのだ。これらにより、必要となる投入資機材が予測できるため、協力会社への支払処理にも生かせる。同社は今後4Dデジタルツインを活用した施工を様々な施工プロジェクトに横展開し、ノウハウ蓄積やシミュレーター開発を進める。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.