理化学研究所は、がんエピゲノムを標的としたマルチオミックス解析により、卵巣がんの新しい発がんメカニズムを解明した。予後不良な卵巣がんの新規治療法への応用が期待される。
理化学研究所は2023年10月4日、がんエピゲノムを標的としたマルチオミックス解析により、卵巣がんの新しい発がんメカニズムを解明したと発表した。予後不良な卵巣がんの新規治療法への応用が期待される。国立がん研究センター、島根大学らとの国際共同研究による成果だ。
研究グループは、予後不良な高異型度漿液性卵巣がん(HGSOC)の新規治療法探索のため、DNAやヒストンの化学修飾によりゲノムの3次元構造や機能を調節するエピゲノムという仕組みの異常に注目した。
まず、HGSOCの発生母地である卵管分泌上皮細胞に段階的に遺伝子導入し、予後不良なサブタイプのHGSOC発がんモデル細胞を樹立し、網羅的なエピゲノム解析を含むマルチオミックス解析を実施した。その結果、腫瘍形成能を獲得する過程で、AP-1ファミリーの転写因子が活性化する一方で、GATAファミリーの転写因子が不活性化することが明らかとなった。
卵巣がん患者由来の組織を用いて発がんモデル細胞の解析結果を検証したところ、AP-1ファミリーの転写因子JUNの発現量が、前がん病変(卵管上皮内がん)組織とHGSOC組織で正常組織よりも高いことを確認した。前がん病変組織では活性化型JUNの発現量が増加していたことから、HGSOCの発生早期でJUNの発現上昇と活性化が重要なことが示唆された。
一方、GATAファミリーの転写因子GATA6とGATA6により転写されるタンパク質DAB2は、正常組織よりも前がん病変とHGSOCの組織で低下していた。DAB2遺伝子は卵巣がんのがん抑制遺伝子であり、がんを促進するRASシグナルを抑制する。
RASシグナルは、上皮細胞が転移能を獲得する機構の上皮間葉転換に関わっている。そこで、上皮間葉転換に重要なカドヘリン遺伝子を多く含む領域のゲノムエピゲノム解析したところ、HGSOCの発がん早期にエピゲノム異常を介したAP-1ファミリーとGATAファミリーの発現異常が複合的に作用し、上皮間葉転換が生じることが示唆された。
RASシグナルを阻害するMEK阻害剤を発がんモデル細胞に投与すると、発がん過程で低下していた複数遺伝子の発現量が回復した。
この結果から、MEK阻害剤がエピゲノム異常の修復に効果があることが明らかとなり、予後不良な卵巣がんの新たな治療法開発に貢献する可能性が示された。
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