デジタルツインを実現するCAEの真価

ボールねじを使った1軸リニアアクチュエーターの性能向上CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(15)(1/6 ページ)

“解析専任者に連絡する前に設計者がやるべきこと”を主眼に置き、CAEと計測技術を用いた振動・騒音対策の考え方やその手順を解説する連載。連載第15回では、ボールねじを使った1軸リニアアクチュエーターの性能向上について考える。

» 2023年09月21日 09時00分 公開

 今回はボールねじを使った1軸のリニアアクチュエーターの性能向上について説明します。「OpenModelica」(参考文献[1])というシミュレーションソフトを使います。費用はかかりません。

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参考文献:


機械の生産性向上と精度向上

 生産に使われる機械は、単位時間当たりの生産量増加が常に求められます。生産性向上ですね。そのためには、機械の動作スピードをアップ(急加速、急停止)する必要があります。図1に、機械の動作スピードをアップさせたときの振動のイメージを示します。

位置決めに要する時間 図1 位置決めに要する時間[クリックで拡大]

 赤色グラフがスピードアップ後、青色グラフがスピードアップ前の1軸アクチュエーターの可動部の位置です。スピードアップにより機械の振動が増大し、位置決め完了に要する時間が伸びるか、決められた時間で打ち切れば位置決め精度が低下します。この結果、製品品質が低下します。つまり、スピードアップの効果が打ち消されてしまいます。

 さらに、位置決め完了時には少しだけ振動成分が残っています。この振動量を許容値としましょう。製品の小型化や高精度化によって許容値が小さくなります。その結果、位置決めに要する時間が伸び、単位時間当たりの生産量が低下します。

 前述した関係を図2で表現しました。生産性を向上させると製品品質は低下し、逆に製品品質を上げようとすると生産性は低下します。生産性と製品品質は相反する関係にあります。

生産性と製品品質 図2 生産性と製品品質[クリックで拡大]

 図2の相反には終わりがないため、常に機械の性能向上が求められることになります。今回はメカ的な発想で機械の性能向上施策を述べたいと思います。答えを先に言っておくと、制御は市販のサーボパック任せ、メカは剛性向上ということになります。

1軸アクチュエーター

 図3に1軸アクチュエーターを示します。モーターでボールねじを回すもので、前回で出てきたX軸テーブルです。モーターの回転をボールねじによって直線運動に変換してステージを移動します。「LMガイド(Linear Motion Guide)」(※注1)は「直動ガイド」とも呼ばれます。

※注1:「LMガイド」はTHK株式会社の登録商標です。

1軸アクチュエーター 図3 1軸アクチュエーター[クリックで拡大]

 運動の自由度はX方向平行移動、Y方向平行移動、Z方向平行移動、X軸周り回転、Y軸周り回転、Z軸周り回転と6自由度ありますが、LMガイドによってステージの運動をX方向平行移動だけの1自由度に制限します。図1のグラフの縦軸はA点の位置だとお考えください。

フィードバック系

 図3のA点の位置は、モーターの総回転数とボールねじのピッチで決まります。ステッピングモーターを使っている場合はモーターに入力するパルス数で決まります。サーボモーターを使う場合はフィードバック系を構築します。フィードバック系の例を図4に示します。

フィードバック系 図4 フィードバック系[クリックで拡大]

 図4の白丸(〇)は引算器です。目標位置と現在位置の差を計算します。ゲインは掛算器で、目標位置と現在位置の差を何倍かにします。この倍率を「ゲイン」といいます。ステッピングモーターを使う場合はパルス数を先にきっちりと計算しておき、それをモーターに入力する必要がありましたが、フィードバック系ではこの計算は不要です。制御対象が恒温槽であれば、ヒーターに流す電流値を事前に求めておく必要はありません。フィードバック系がよろしく計算してくれます。

 制御対象を人間、目標位置を仕事のスケジュール、現在位置を仕事の進捗(しんちょく)としましょう。仕事の納期を10日とすれば、1日目の仕事の進捗量は10[%]、5日目の進捗量は50[%]となるはずで、これが目標位置になります。

 例えば、5日目の実際の進捗が40[%]だったら、仕事の遅れは10[%]、つまり目標位置と現在位置との引き算の結果は10[%]になります。この程度であれば、上司の催促も「高橋君、あの仕事どう?」くらいで済むでしょうか。真面目な社員であれば、残業したり、他の仕事との優先順位を変えたりして、何とか遅れを取り戻そうとします。次に、8日目の実際の進捗が50[%]になりました。仕事の遅れは30[%]です。これくらいになってくると、上司から「高橋君、ちょっと会議室で話そうか」と呼び出されたり、叱咤(しった)激励を受けたりする可能性が出てきます。

 図4のゲインは、叱咤激励の言葉の強さに相当します。仕事の遅れ量が大きいほど、厳しい叱咤激励の言葉となります。制御対象が人間の場合、どんなにゲインを上げても効果がないことがありますが、相手が機械だと、ゲインを上げればそれなりの反応をしてくれます。

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