以前ご紹介した通り、特に主要国では、製造業から公共的産業への転換が進んでいます。
公共的産業というのは、OECDの統計データでは公務・教育・保健というカテゴリーで扱われています。製造業と同様に、公務・教育・保健の労働者数シェアも眺めてみましょう。
図3のグラフが主要国の公務・教育・保健の労働者数シェアです。
なんと、フランスは1980年代から25%を超えており、極めて高いシェアに達していたことが分かります。その後、1990年代からは30%前後で推移していますね。製造業からの転換が大きく進むとされる米国、カナダ、英国も徐々にシェアを高めています。
逆に、製造業の労働者数シェアが比較的高い、日本、韓国、イタリアの公務・教育・保健の労働者数シェアは低水準です。イタリアはむしろ、水準がやや低下してさえいますね。日本、韓国は拡大傾向が続いていますが、まだ他の主要国の水準からは遠く離れているようです。
興味深いのは、製造業のシェアが最も高いドイツが、公務・教育・保健のシェアもかなり高いという点です。製造業と公共的産業を両立させつつ成長している印象ですね。
図4のグラフは、2021年の公務・教育・保健の労働者数シェアを降順に並べたものです。上位はやはりノルウェー(36.6%)、スウェーデン(34.1%)など北欧諸国が並びます。高福祉高負担の福祉国家という特徴が良く表れているようです。3人に1人以上は公共的産業の労働者ということになります。
北欧諸国に続くのは、ベルギー(30.9%)やフランス(29.4%)、米国(28.6%)と続きます。米国が上位にいることを意外に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、この区分には防衛産業の従事者なども含まれますので、その影響も大きいかも知れません。
ドイツ(26.0%)も37カ国中13位で、平均値を上回り高い水準であることが分かります。日本は19.3%で、イタリア(19.1%)と同程度、コロンビア(10.9%)、メキシコ(12.9%)、コスタリカ(14.7%)に次いで先進国でワースト5位となります。
日本は公務員が少ないということも良く指摘されますが、公共的産業そのものの労働者が少ないということになりますね。ちなみに公務員の労働者数について、OECDではこんな統計データも公開されています。
図4のグラフは労働者全体に占める一般政府の労働者数の割合を示したものです。なお、2016年とちょっと古いデータを参照することになりますが、ご容赦ください。この割合について、日本は5.7%でOECD加盟国中最下位です。図4の順位とおおむね似た並びになっていますが、ドイツが下から4番目だったり英国や米国の順位が比較的低いなど、相違も見られます。
区分として公務員(政府の労働者)かどうかと、公共的産業の労働者かどうかで差異があるようです。
日本は現在の所、先進国の中でも生産性の高い製造業の労働者が比較的多く、生産性が中程度の公務・教育・保健の労働者がかなり少ない産業構造です。それを背景に考えると、本来であれば日本の生産性は全体的に高まりやすい状況にあると思われますが、実際にはそうはなっていないようです。
上のグラフは、主要国の労働生産性(労働時間あたりGDP)の推移です。実感に近いとされる購買力平価換算による比較です。日本は以前から生産性が低いとされていますが、近年ではさらに他の先進国との差が開いている様子が分かりますね。
公共的産業の比重が大きい国々に、生産性ではむしろこれだけの差をつけられてしまっているわけです。ここには産業構造を見るだけでは分かりにくい違いもあるのかもしれません。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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