ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。
今回は、日本の製造業の具体的な中身の変化についてご紹介します。参照する統計データは、内閣府の国民経済計算です。
以前、工業統計調査の産業別付加価値などをご紹介しましたが、今回は内閣府のデータとなります。国民経済計算では、製造業の詳細分類ごとの国内総生産(付加価値の合計)が集計されています。さらにそれぞれの詳細分類に対して、額面を足し合わせた名目の数値とともに、物価の変化を加味した実質の数値も公開されています。
今回は、この名目と実質の数値を使って、日本の産業がどのように変化したのかを確認してみたいと思います。以前の連載(「多様性の経済」という価値の軸を、中小製造業が進むべき方向性とは)でもご紹介しましたが、まずは日本の経済活動別国内総生産の変化を改めて見てみましょう。
日本経済のピークとなった1997年と、コロナ禍の影響の少ない2019年の変化量を相関図(散布図)にまとめると、経済活動の変化の傾向が良く分かります。
図1は日本の経済活動別の国内総生産(GDP=付加価値の合計)について、名目変化量(横軸)と実質変化量(縦軸)にプロットしたグラフです。日本経済のピークとなった1997年から成長した経済活動が何なのか、どのような成長をしているのかを視覚的に捉えることができます。
バブルの大きさが2019年の名目の国内総生産を表しています。つまり、バブルが大きい方がその経済活動の規模が大きいことを示しています。
名目変化とは金額で測った経済規模の変化を表し、実質変化とは物価の変化を踏まえた数量的な経済規模の変化を表します。つまり、名目で成長するというのは付加価値の合計が増えることで、実質の成長とは生産数量が増えることを意味しますね。
また、名目変化と実質変化の間には、物価が上がったか下がったかという関係も影響します。図1の緑色の線が名目変化=実質変化となり、物価(デフレータと呼ばれます)が変わらないラインです。このラインより左上の領域はその経済活動の物価が下がったことを意味し、右下の領域は物価が上がったことを意味します。
図1のような散布図を作ると、(1)の領域(4象限の右上で緑線の下部)で変化するのが一般的です。つまり、名目が成長しており、物価も上昇しつつ実質も成長しているという領域です。実際にドイツや米国など他の主要先進国では、ほとんどの産業が(1)に当てはまります。
しかし、図1をよく見ると、日本の場合はこの領域に該当する成長経済活動は「運輸・郵便業」くらいです。ほとんどの経済活動で物価が下がっているということが日本経済の特徴ですね。
名目でも実質でもプラス成長しているのが、「保健衛生・社会事業」「専門・科学技術、業務支援サービス業」「情報通信業」などです。これらの産業は経済規模も比較的大きく、成長産業と呼べる経済活動です。(2)の領域(4象限の右上で緑線の上部)となりますので名目でも実質でも成長していますが、物価が下がっています。
一方で、名目でも実質でも縮小している産業も多いことが分かります。特に「建設業」の減少が大きく、「金融保険業」や、「宿泊・飲食サービス業」「卸売・小売業」なども名目も実質も縮小しています。
そして、とりわけ異質な位置にいるのが私たち「製造業」ですね。製造業の変化の領域は(4)です(4象限の左上で緑線の上部)。すなわち、名目では縮小しているものの、実質では成長していて、物価が下がっているということです。
これは言葉を変えると次のような表現になります。製造業は、安く(=物価下落)たくさん生産していますが(=実質成長)、経済規模が縮小(=名目縮小)しているということです。物価が下がっている産業が多いのは日本経済の共通した特徴ですが、中でも製造業の変化は特殊であることが分かりますね。
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