日立の細胞培養加工施設とバリューチェーン統合基盤を活用した再生細胞薬を提供へFAニュース

沖縄県で再生医療事業を手掛ける由風BIOメディカルが日立グローバルライフソリューションズの最新式の細胞培養加工施設と、日立製作所のバリューチェーン統合管理プラットフォームを活用した再生細胞薬の製造、供給を2023年6月から開始する。

» 2023年05月19日 13時00分 公開
[長沢正博MONOist]

 沖縄県で再生医療事業を手掛ける由風BIOメディカルが日立グローバルライフソリューションズ(以下、日立GLS)の最新式の細胞培養加工施設(CPC)と、日立製作所(以下、日立)のバリューチェーン統合管理プラットフォームを活用した再生細胞薬の製造、供給を2023年6月から開始するのに先立ち、同年5月18日、オンラインで概要に関する説明会が行われた。

より安心安全な再生医療の提供へトレーサビリティーなど整備

 再生医療は患者自身の身体から取り出した細胞を培養し、投与することで病気や事故などで失われた組織の再生を図る治療法だ。新たな選択肢として近年注目されており、2014年には「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(以下、再生医療等安全性確保法)が制定されたが、ルール整備の途上だ。

 2020年に設立された由風BIOメディカルは、沖縄県うるま市の沖縄健康バイオテクノロジー研究開発センター、沖縄バイオ産業振興センターを拠点に事業展開している。沖縄県は再生医療を含む先端医療を産業振興戦略の1つに掲げており、由風BIOメディカルは「令和4年度バイオ関連産業事業促進課事業」に採択され、沖縄県内外に対する「再生医療CMOに係る事業性検証」を実施した。

 由風BIO 代表取締役社長 CTOの中M数理氏は現状の再生医療の提供について大きく3点の課題に触れた。1つ目はエビデンスだ。「国立がん研究センターの発表によれば、自由診療で提供されている再生医療の中には安全性や効果の科学的根拠が乏しかったり、再生医療を提供している医師の専門性に疑念があったりするものも含まれている」(中濱氏)。

 2つ目は、実際に細胞を培養するCPCのスペックや運用である。厚生労働省の「再生医療等安全性確保法施行5年後の見直しに係る検討のとりまとめ」では、医療機関に併設されている届け出制既存CPCにおいて軽微な指摘や改善を推奨する事項があった他、医療機関外に置かれた許可制既存CPCでは品質確保や業務適正化の点から将来的に改善が必要と考えられる事項が多くみられたという。

 そして3つ目の課題として、再生医療等安全性確保法に基づく特定細胞加工物の流通において、検体採取から特定細胞加工物の投与までの全工程にわたる検体、特定細胞加工物の個体管理や情報識別を実施するための標準的な仕組みが存在しない点も指摘した。

 これらの中で、日立GLSの次世代モジュール型CPC、日立の再生医療等製品バリューチェーン統合管理プラットフォームを取り入れることで、CPCのスペックや運用、トレーサビリティーといった課題の解決を図った。

由風BIOが構築した細胞培養加工施設とバリューチェーン統合管理プラットフォームの概念図 由風BIOが構築した細胞培養加工施設とバリューチェーン統合管理プラットフォームの概念図[クリックで拡大]

 次世代モジュール型CPCは、モジュール型の独立構造のため設置、増設が容易で組み立て期間の短縮も可能となっている。本来はダクトを設けてダンパーで室圧や温度、湿度の制御を行うが、それをダクト施工をする必要がない二重天井方式にすることで短工期を実現した。ダクトを使わないFFU(ファン付きフィルターユニット)による室圧制御は、通常より大幅な電力消費の削減が可能になっている。再生医療等安全性確保法の領域での設置は今回が初という。

「ダンパーで1つずつ空気を送り出すとエネルギー効率が悪い。通常、CPCのようなクリーンルームは消費電力が大きいが、われわれは次世代モジュール型CPCによってコストを下げることができている」(中濱氏)

 日立の再生医療等製品バリューチェーン統合管理プラットフォーム(HVCTRM)は、診断や細胞採取から、製造、投与、市販後調査まで再生医療製品のバリューチェーン全体の細胞、トレース情報を管理する共通サービス基盤だ。病院、製薬企業、CMO(医薬品製造受託機関)/CDMO(医薬品開発製造受託機関)、物流企業など、再生医療の流通に関連する全てのステークホルダーが共通に利用可能で、クラウド上でスムーズに連携できる。また、問題が発生した際には、いつどこで何が起こったのかをトレースバックすることが可能になっている。再生医療等安全性確保法の領域での導入は初めてとなっており、日立が考える標準業務フローと実運用との相違点を洗い出し、それらを反映して実運用フローを作製した。

「このシステムを使えば、患者が自分の細胞がどんな工程で、どのように扱われてきたのか説明を受け、納得した上で投与することができるようになる。再生医療に対する安全、安心を高めていく上で効果的だ」(中濱氏)

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