宇宙の断熱保冷技術を地上でも、小型なのに長期温度維持可能な輸送コンテナイノベーションのレシピ(1/3 ページ)

JAXAの開発した断熱保冷技術。これを宇宙だけでなく“地上”でも役立てようとするスタートアップが存在する。「JAXAベンチャー」のツインカプセラだ。

» 2023年04月12日 08時00分 公開
[池谷翼MONOist]

 国際宇宙ステーション(ISS)から地球に物資を送り届ける――。2018年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は国内で初めてとなるミッションに挑戦した。ISSで作成された実験サンプルであるタンパク質結晶を再突入カプセルに乗せて、地球上で回収するというものだ。

 当時の報道では、再突入カプセルが採用した揚力誘導技術による帰還の成否に注目が集まった。同技術は将来の有人宇宙船開発に欠かせない重要な技術だからだ。だが、実はその他にも注目すべき技術が実装されていた。高性能な断熱保冷技術である。

 大気圏再突入時のカプセル外表面の温度は数千℃に達する。カプセル本体が熱防護されているとはいえ、こうした高温環境下では、徹底した温度管理がなされなければ回収すべきタンパク質が変質しかねない。許容される温度変化の幅は2〜6℃。JAXAは回収プロジェクトを立ち上げ、最適な手法の開発に取り組んだ。

 その過程で生まれたのが、再突入中の期間を含めて約5日半もの間、内部の温度変化をわずか0.3℃程度の範囲内に収められる断熱保冷容器だ。使用された真空断熱容器はJAXAから依頼の開発プロジェクトの下で、タイガー魔法瓶が製造した。これらの技術を乗せた再突入カプセルは、ISS補給機「こうのとり」7号機から放出された後、無事に地上で回収された。

 実は、この断熱保冷技術を宇宙だけでなく“地上”でも役立てようとするスタートアップが存在する。「JAXAベンチャー」の1社であるツインカプセラだ。同社の技術的強みや事業展望について、ツインカプセラ CEO/代表取締役の宮崎和宏氏に話を聞いた。

宇宙からの物資回収プロジェクトで活躍した技術を活用[クリックして拡大] 出所:ツインカプセラ

コンパクトでも長期間の保冷が可能なコンテナ

 JAXAベンチャーとは「JAXAの知的財産やJAXAの業務で得た知見を利用した事業を行い、JAXA所定の審査を経て認定された」(JAXA 新事業促進部のWebサイトより)スタートアップを指す。開発した宇宙関連技術を別領域で役立てることを目的にスピンオフした企業だ。米国航空宇宙局(NASA)などでも同様の取り組みがある。

ツインカプセラ CEO/代表取締役の宮崎和宏氏 出所:ツインカプセラ

 現在、JAXAベンチャーはツインカプセラを含めて9社存在する。ツインカプセラは2021年3月にJAXAベンチャーとしての認定を受けた。宮崎氏とツインカプセラ 取締役 CTOの畠中龍太氏は共にJAXA再突入カプセルの開発プロジェクトメンバーであり、「断熱保冷技術に“2度目”の活躍の場所を与えて、世の中に役立てたい」という思いで会社設立に至ったという。なお、両名は現在もJAXAの職員で、ツインカプセラの職務と兼業中だ。

 ツインカプセラの最大の強みが、前述の再突入カプセルのプロジェクトなどで培われた断熱保冷技術だ。それに基づき現在、地上用の小型保冷コンテナを開発しており、それらを用いたサービス、ソリューションの実現に向けた取り組みを進めている。

試作中の小型保冷コンテナの外観[クリックして拡大]

 ツインカプセラが試作中の小型保冷コンテナは、約13×13×25cmと片手で持てるサイズを想定する。IoT(モノのインターネット)機能で上部のモニターからコンテナ内の温度が確認可能で、Wi-Fi経由でスマートフォンなどでも把握できる。仮に適した温度帯でワクチンを運搬する場合、約100人分が格納可能だという。保冷剤やドライアイスを同梱することで、最低−80℃までの保冷が行える。

 保冷可能期間の目安は4℃では約1〜5日、−20℃は約1.5〜2.5日、−80℃は約2〜3日。保冷のための電源は不要で、リチウムイオン電池などのバッテリーも搭載しないため航空輸送も可能だ。

小型保冷コンテナの概要[クリックして拡大] 出所:ツインカプセラ

 小型保冷コンテナの製造は、JAXA時代と同様にタイガー魔法瓶に委託している。タイガー魔法瓶とツインカプセラは2021年10月に業務提携を締結した。

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