宇宙の断熱保冷技術を地上でも、小型なのに長期温度維持可能な輸送コンテナイノベーションのレシピ(2/3 ページ)

» 2023年04月12日 08時00分 公開
[池谷翼MONOist]

真空断熱容器を二重にした構造

 小型保冷コンテナはコンパクトでありながら、長時間の温度維持が可能な保冷/保温性能と、外部の温度変化に強い断熱性能を持つ。魔法瓶型の真空断熱容器で構成された非常に薄肉な作りのため、保冷コンテナ全体の体積に対して容器として利用できる比率(容積率)も高い。

 内部の構造は、大きい容器(外容器)と一回り小さい容器(内容器)を、開口部が互い違いになるように二重に組み合わせたものとなっている。一般的に、魔法瓶の開口部は熱が逃げる“弱点”となるが、これを別の魔法瓶で蓋をするイメージだ。内容器と外容器の開口部をできるだけ遠ざけることで、熱を侵入させづらくすることで保冷性能を高める。単純に開口部に断熱材のふたを被せるより、熱が逃げにくいのだという。

内部構造の紹介[クリックして拡大] 出所:タイガー魔法瓶Webサイト(サイズはJAXA公開情報を元にツインカプセラが追記)

 宮崎氏は既存の保冷コンテナ市場には、小さいコンテナ体積で長期の保冷期間を実現する製品はまだ少ない、と説明する。基本的に、保冷コンテナの体積と保冷可能期間は基本的に正比例の関係にある。容量が大きければ、その分、断熱材を分厚くして保冷剤を多く入れられるからだ。このため、遠方まで物資を冷やして運ぶのであれば大きなコンテナを選ぶというのがセオリーだったという。

既存の保冷コンテナとの比較[クリックして拡大] 出所:ツインカプセラ

 だが、ツインカプセラの小型保冷コンテナは国内宅配輸送の場合、週末をまたいだ輸送が可能な2泊3日の輸送や、離島からも運べる3泊4日の輸送にも対応する。土日を挟んだ金曜発送をさけて月曜に改めて発送する手間を防げるため、週末またぎの輸送は特にニーズが高い。輸送コストの観点から見ても、「小型なので非常に低コストで運べるのが新しい点だ」(宮崎氏)とする。

熱の解析/シミュレーション技術という強み

 ただ、仮に小型で高性能な保冷コンテナがあっても、顧客の要求に合わせた最適な保冷環境を提案することは簡単ではないようだ。求められる温度と保冷期間に合わせて、コンテナの容量や断熱材のサイズ、保冷剤の量をどのように最適化するかを考える必要がある。

 先に述べた通り、大きめのコンテナに多くの断熱材と保冷剤をとにかく詰め込めば、それだけ保冷期間は伸びる。だが、現実には輸送量や費用などの制約があり、「大は小を兼ねる」式の発想は解決策にならない。そもそも、小型の保冷コンテナは大型のコンテナと比べると搭載可能な保冷剤の量に限りがある。保冷剤をうまく組み合わせて容器内の隙間をなくし、最大限の保冷性能を出せるようにしなければならない。

 ツインカプセラはこの領域でも強みを発揮できる。同社にはJAXAのプロジェクトを通じて得た大量の実験データや熱の解析技術、シミュレーション技術が大量に蓄積されている。これによって、最適な保冷環境の構成を迅速に提案できる。ツインカプセラではこれらの技術を生かして、輸送における保冷/保温に関する解析受託業務やコンサルティングも行う。

「実環境での保冷性能を予測し、性能向上のための効果的な構造を見つけるのは、実はかなり難しい問題だ。一般的には、保冷コンテナの試作と性能検証を繰り返さなければ、最適解は発見できないだろう。正確なシミュレーションを基に保冷剤やドライアイスの量、コンテナの大きさを提案できるのは他社にない強みとなっている」(宮崎氏)

 なお、保冷材は大きさや長さが異なる複数パターンを用意して、検体のサイズや顧客の要求に応じて組み合わせて提案するという。

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