理化学研究所は、皮膚上や体内埋め込み型センサーへの応用が期待される、厚さ約1.3μmの伸縮可能な導体を開発した。皮膚や臓器への密着性も良好で、生体情報取得のためのセンサー用電極として使用できることを確認している。
理化学研究所は2022年11月28日、厚さ約1.3μmの伸縮可能な導体を開発したと発表した。皮膚上や体内埋め込み型センサーへの応用が期待される。同研究所や東京大学などの国際共同研究グループによる成果だ。
開発した極薄伸縮性導体は、厚さ約1.2μmのシリコーンゴムであるPDMS(ポリジメチルシロキサン)基板上に、マイクロクラック構造を持つ金を成膜して作製する。マイクロクラック構造の表面には微小な亀裂が入っており、引っ張りひずみが加わった際に力が亀裂によって分散することで金属の破断を防止する。開発した導体は、導電性を維持したまま、最大300%の引っ張りひずみまで伸ばすことができた。
金のマイクロクラック構造は、PDMSと金の熱膨張率の違いを利用して形成する。金の熱蒸着中にPDMSが熱膨張して変形することで、成膜された金にクラックが形成されるが、厚さ1μmほどのPDMSでは膨張が不十分で、金にマイクロクラック構造は形成できないことが知られている。そこで、厚さ約1μmのPDMSの下に厚さ約100μmのPDMSサポート層を挿入して金蒸着したところ、PDMSの十分な熱膨張を誘発し、マイクロクラック構造を形成することに成功した。
伸縮性導体を皮膚上で利用するためには、皮膚との密着性が重要になる。そのため、金電極表面に薄い粘着性イオン導電性ポリマー(pDAM)を塗布し、皮膚との間の密着性を改善した。心電図計測用の電極として使用した結果、手洗い、ランニングや水泳などの運動、連続8時間着用の後でも、継続かつ安定して計測できることを確認した。
また、極薄伸縮性導体を体内に埋め込んでニューラルインタフェースとして利用できるか検証したところ、神経との良好な接触を示した。電気刺激伝達や生体信号記録の性能を厚い電極と極薄伸縮性導体で比較すると、どちらも極薄伸縮性導体の方が性能を向上させることが分かった。
開発した極薄伸縮性導体は、ソフトロボティクスや微小な電子機械システム(MEMS)などの分野にも活用できる。さらに、伸縮性と耐久性に優れた次世代生体適合性エレクトロニクスへの応用につながることが期待される。
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