カスタマーサクセスは「2.0」時代に突入、製造業の成長エンジンの役割担う製造業のための「カスタマーサクセス」入門(2)(3/4 ページ)

» 2022年12月06日 08時00分 公開

企業の学習エンジンとなるカスタマーサクセス

 カスタマーサクセス2.0が企業にもたらす効果として、もう1つ大きなものがあります。先にも述べた通り、カスタマーサクセス2.0は、顧客が望む成功体験の実現を目指し、顧客のライフサイクル全体にアプローチし続けていくわけです。この役割の担い手は、企業によってさまざまですが、一般的には顧客の成功体験にコミットするチームとして置かれ、CS(カスタマーサクセス)と略されることが多いでしょう。

 CSでは、従来セールスやカスタマーサポートが担っていた顧客の購買後の困り事に対する受動的な対応と異なり、顧客の利用状態や満足度を観察し、顧客満足度を高める働きかけを能動的に行っていきます。従って、セールスやエンジニアよりも、誰よりも顧客と深く向き合い、その業務プロセスや真の課題を知ることができる立場にいます。このCSから得られる情報は、企業にとっては既存顧客のリアルな姿を学ぶための貴重な資料になります。

 製品開発のプロセスを考えてみましょう。例えば、味の素のクノールカップの商品開発を見ると、そのプロセスには市場規模や新製造技術、競合情報などのマクロ的な視点と共に、顧客の期待に応えられているかを確認して社内にフィードバックし、課題を解決する機能を生み出すミクロ的な視点があります(図6)。間違いなくCSは、後者に関してその役割を十分に担える存在となり得るでしょう。顧客からのフィードバックを社内に還元し、課題点の解決につなげられれば、顧客満足度が上がります。さらに新たな価値ある商品を生み出すことができれば、企業側も成長し続けられます。

■図6:味の素の事例[クリックして拡大] 出所:セールスフォース・ジャパン

 ただし、やみくもに顧客の声に全て対応し続けようとすると、コストが過剰にかさむ製品開発やCS活動になってしまいます。これに関しては、繰り返しになりますが、企業にとって正しい仕方で、顧客との緊密な共存関係を構築することを忘れないようにすべきだと筆者は考えます。企業が提供する価値をきちんと理解し利用している顧客からは、企業の視点では気付かないような新機能や新サービスのアイデアがもたらされる可能性が高まります。この好循環サイクルこそ、企業の学習エンジンとなり得るのではないでしょうか(図7)。

■図7:企業の学習エンジンに[クリックして拡大] 出所:セールスフォース・ジャパン

 企業の学習エンジンとして、製品開発プロセスのみならず、マーケティングや営業との拡販プロセスにおいても、CSが貢献できる役割は大いにあると考えます。カスタマーサクセスに関わる業務担当者は、製品販売ではなく、製品利用体験価値の実現(=顧客側での成果)が使命となります。従って彼らは、顧客が製品を購入しようと考えているか否かという意思とは関係なく、その顧客が製品を利用している限りいつでも顧客への接触が可能です。また、顧客側からしても、何かを買わされるという警戒心が薄く、自分達の利用体験を率直に伝えやすい存在なのです。

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