カスタマーサクセスは「2.0」時代に突入、製造業の成長エンジンの役割担う製造業のための「カスタマーサクセス」入門(2)(2/4 ページ)

» 2022年12月06日 08時00分 公開

顧客への提供価値最大化を目指した「ホットクック」

 具体的な事例として、シャープの「ホットクック」を見てみましょう(図4)。このホットクックはB2C向けの調理家電機器で、普通に考えれば売って終わりの売り切り型モデルの製品です。しかし、シャープはまさにカスタマーサクセス2.0を実践、購買後の顧客の利用ライフサイクルへのアプローチにフォーカスしました。ホットクックのレシピ投稿や閲覧、ダウンロードを可能にするカスタマーサクセスコミュニティーを運営、ホットクック活用の幅を広げ、既存顧客への提供価値の最大化を目指したのです。

 結果、販売台数は発売時の2015年度の約3万台から伸び、2019年には累計30万台の販売を達成しました。活用の幅が広がったことで、既存顧客のオプション品購入のアップセルのみならず、ユーザーの口コミによる新規顧客の取り込みにも成功したといえるのではないでしょうか。

■図4:「ホットクック」の例[クリックして拡大] 出所:セールスフォース・ジャパン

 既存顧客離れを防ぐことによる効果は、米国のコンサルティングファームであるBain & Companyが「5対25の法則」として表現しています。すなわち、5%の顧客離れを改善することで25%の利益率が改善し得るといったものです。

 なぜこれほど大きく利益率が改善するかと言えば、新規顧客を獲得するコストに関係しています。皆さんもご承知の通りかと思いますが、Bain & Companyは新規顧客を開拓して製品を販売する場合、既存顧客に対して販売するよりもコストが5倍もかかるとしています。従って、購入した顧客が「成功した」、つまり「使ってよかった」と実感できるような積極的かつ長期的な働きかけを行うことは、自社製品やサービスの長期利用を促し、その顧客から得られる顧客生涯価値(Life Time Value、略称LTV)を拡大することにつながるのです(図5)。

■図5:カスタマーサクセスの収益効果[クリックして拡大] 出所:セールスフォース・ジャパン

 このLTVを最大化させる上では顧客の購買頻度や単価の増加など注目すべき点はいろいろとありますが、大前提として「顧客との関係性」をきちんと見定めることが重要だと筆者は考えます。顧客との長期間にわたる取引が前提になるため、自社にとってその顧客が価値ある顧客になるかどうかが大事になります。膨大な顧客リストからさまざまな角度でデータ分析を行い、ターゲティングを行う必要があることは言うまでもありません。

 その上で、「どうしたら、その顧客に長期間利用してもらえるのか」「その顧客の課題をいかに早く察知するか」「どのようにその課題を解決できるのか」といった部分に真剣に向き合います。コストをかけてでも、自社が長期的に信頼関係を築きたい顧客像を想定し、そうした顧客層が求める価値を提供する。これによって、LTV拡大による真の収益効果を享受できるのではないでしょうか。

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