顧客の成功体験づくり、「カスタマーサクセス」の重要性に国内外の製造業から注目が集まっています。本連載ではこの概念を分かりやすく解説します。第2回は国内製造業のカスタマーサクセスの取り組み状況や、事例を取り組み事例と狙いを紹介していきます。
本連載第1回では、製造業においても、顧客の成功体験づくり(=カスタマーサクセス)への取り組みが始まっているワケを考察しました。モノ所有から体験価値重視という顧客の変化や、モノ売りからコト売りへという製造業自身の変遷が、「買ってもらって終わり」という思考から「使ってもらう中で顧客が望む体験を作り出す」というカスタマーサクセスという概念へのシフトをもたらしている状況をご理解いただけたのではないでしょうか。
しかしながら、日本の製造業でカスタマーサクセスに本格的に取り組んでいる事例を調べるとまだまだ少ないというのが実情です。その理由はなぜなのでしょう?
今回は日本の製造業に関わる読者の皆さまが、カスタマーサクセスへの取り組みを考える契機となるような情報を少しでもお届けできたらと思います。
製造業でのカスタマーサクセスの取り組みを調査する中で、幾つかの事例が見つかりましたが、その多くは海外製造業によるものでした。なぜ、日本の製造業の事例は少ないのでしょうか?
ある調査会社のデータで興味深い結果が示されています(図1)。日系企業勤務、外資企業勤務の回答者による「カスタマーサクセスの概念は理解しているが、取り組む必要性を感じない理由」を見ると、傾向が他の回答者と明らかに違うのです。
外資企業勤務の回答者は、「カスタマーサクセスに人材を割くなら、他にもっとやるべきことがある」「今のままで顧客満足度が高いのでカスタマーサクセスに取り組む必要がない」など、カスタマーサクセスを理解した上で、会社としての優先順位に基づいて意思決定しているように見えます。一方で、日系企業勤務の回答者では、取り組む必要性を感じない最大の理由は、「いまいちメリットが感じられない」となっています。カスタマーサクセスの取り組み効果への理解が深まっていない様子が伺えます。会社内でカスタマーサクセスに関する話題が議論の俎上(そじょう)に上がることもないかもしれません。
この結果を踏まえると、日本の製造業においてカスタマーサクセスの議論や取り組みが本格化するには、カスタマーサクセスがもたらす企業側への効果を本質的に理解する動きが広まっていく必要があると筆者は考えます。
カスタマーサクセスは、SaaS型サービスを提供する企業だけでなく、顧客に選ばれ続け成長する企業になるための重要なピースであることは連載第1回で述べた通りです。これを裏付ける概念として、ここで、2018年1月に米国のコンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した「カスタマーサクセス2.0」を紹介します(図2)。
「カスタマーサクセス2.0」は、カスタマーサクセスがどんな事業でも普遍的に取り入れることができるもので、今後の事業推進における役割もより大きくなものとなることを示しています。「カスタマーサクセス1.0」の時代では、カスタマーサクセスはSaaS型サービスの更新時における解約防止を主眼に置いていました。いわば、顧客のサービス更新時の場当たり的な火消しであり、火消しが失敗した時にはその分の売上マイナスのみが発生するというイメージです。これは「守りのカスタマーサクセス」と言えます。
それに対して、「カスタマーサクセス2.0」は更新時に限らず、「顧客の購買〜利用ライフサイクル全体」で顧客の成功体験づくりを支援し続けます。そして、その継続的なアプローチを通じて製品を長く使ってもらう中で、他の製品の良さも知り利用してもらえるようにするなど、企業はアップセルやクロスセルの機会を生み出せるのです(図3)。
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