カスタマーサクセスは「2.0」時代に突入、製造業の成長エンジンの役割担う製造業のための「カスタマーサクセス」入門(2)(4/4 ページ)

» 2022年12月06日 08時00分 公開
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事業に成功した企業の多くがカスタマーサクセス重視

 長期での顧客観察から得られる情報は、マーケティングにおける「企業にとっての優良顧客の定義決め、その顧客像が求める成功体験の内容、アプローチ方法」、また、セールスにおける「顧客LTV増加をもたらす活動の特徴抽出、顧客側感度」などの点で、彼らが気づいていない新たな示唆を与えることができます(図8)。

■図8:製品の購入意思に関係なくコミュニケーションが可能に[クリックして拡大] 出所:セールスフォース・ジャパン

 とはいえ現実には、既に確立されている個々の業務に対し、「顧客の成功体験が大事」と言葉だけ振りかざしても、そう単純にやり方が変わるものではありません。目の前の顧客から学習して、さまざまな業務オペレーションや人をつなぎ成長し続けるということは、企業のトップダウンでの戦略的推進無くしては実現できないと筆者は考えます。第1回で紹介したシーメンスのグローバル顧客パートナー支援チームは、「プリセールス、サービス、カスタマーサクセス、マーケティング、サポートのスタッフを擁して連携することで、カスタマーサクセスを成功させる」と述べています

 米国の大手ソフトウェア会社による調査結果によると、事業が成功している企業は他企業に比べ、カスタマーサクセスを非常に重要だと捉えている割合は70%にものぼり、この割合はその他の一般企業より21%も高いと示されています(図9)。カスタマーサクセスへの取り組むということは、企業の経営戦略そのものに深くかかわるものといえるのではないか、と筆者は考えます。

■図9:カスタマーサクセスは企業戦略そのもの[クリックして拡大] 出所:セールスフォース・ジャパン

 最後に、第2回の内容をまとめると、以下のようになるでしょう。

  • 日系企業でカスタマーサクセス(顧客の成功体験)の必要性を感じない理由は、カスタマーサクセスのメリットの本質的理解不足
  • カスタマーサクセスは2.0の時代に突入しており、さまざまな業種の企業で普遍的に広まり得る
  • カスタマーサクセス2.0は1.0時代と異なり、顧客の製品利用サイクル全体での最適化にフォーカスする
  • カスタマーサクセス2.0の効果の1つは収益効果。顧客への継続的なアプローチを通じ、長く使ってもらえる、他の製品の良さも知り利用してもらうなど、企業はアップセルやクロスセルの機会を生み出せる
  • むやみやたらな顧客志向主義を支持しているのではない。顧客が求める成功体験を長期にわたり実現し続けるには多くのコストがかかる。顧客分析やターゲティングは当然ながら必要
  • もう1つの効果は、企業内の学習エンジンとしての役割を担うことができる点。企業内でのさまざまなオペレーションや人がつながり、顧客の求めている成功体験とは何かを学び、企業自身も成長し続ける
  • カスタマーサクセスへの取り組みは、トップダウンでの推進は不可欠。企業の戦略そのもので、業績にも影響し得る

 次回は、実際に、このカスタマーサクセス2.0のアプローチを実践している企業事例を取り上げて、考察を進めていきます。

⇒本連載の目次はこちら

筆者プロフィール

株式会社セールスフォース・ジャパン シニアプリンシパルカスタマーサクセスマネージャー

五味 信子(ごみ のぶこ)

経歴

日系大手半導体製造販売会社、部品製造販売流通会社などを経て、株式会社セールスフォース・ジャパン入社。

事業会社におけるさまざまなDX関連プロジェクトリード経験を生かし、国内製造業のデジタル推進プロジェクト支援に従事。

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