続いて、クラーク氏はeVTOLの実現に向けた設計、製造の取り組みについても紹介した。Joby Aviationが目指すeVTOLの実現に向けて、一から新たな機体の設計開発を進めていくためには、航空力学、機械工学、電気設計、構造解析、製造といったさまざまな分野を組み合わせ、それらを迅速かつ強力な反復サイクルで回すことが求められた。
「そこで『3DEXPERIENCEプラットフォーム』を活用し、各分野の間で設計意図を効果的に伝達できるようにしながら、設計では『CATIA』、解析では『SIMULIA』、製造のシミュレーションでは『DELMIA』といった各種ツールを駆使して、実際に正しいと思う結果が得られるまでプラットフォーム上で何度も試行を繰り返し、作業を進めてきた。1つのプラットフォーム上でこれらのツールをシームレスに使えるようになったことで、開発チームの負荷が大幅に軽減された。また、設計以外のメンバーも早期に製品開発に携わることができ、重要な意見の交換や情報共有に役立てることができた」と、クラーク氏は3DEXPERIENCEプラットフォーム上でのバーチャルなモノづくり、コラボレーションの有効性について語る。
さらに、クラーク氏は電動パワートレインの要であるモーターやバッテリーの開発についても言及。Joby AviationがeVTOLの開発に着手した当時は、電動モーターといえば電車やクルマ向けのものがほとんどで、ドローン用のものでは小さ過ぎたため、軽量かつ高性能、高信頼の航空機用モーターを自社開発。また、バッテリーに関しても、重量とコストを抑え、設計ニーズを満たすコンパクトな統合バッテリーシステムが不可欠であった。いずれも自社開発であるため設計の自由度は高いが、安全性や製造性、さらには将来の技術革新にも対応できる柔軟な設計が求められる。それぞれ別の拠点にあったモーターとバッテリーのチームは、3DEXPERIENCEプラットフォームを介して、「設計の意図とチーム間の明確なコミュニケーションを実現することができた」(クラーク氏)という。
そして、機体設計に関しては「従来の設計手法を踏襲しつつ、素材や一部の設計を現代風にアレンジした」(クラーク氏)とし、機体には軽量なカーボンファイバー(炭素繊維)を用いていると紹介した。時間とコストのかかるカーボンファイバーを用いた部品設計では、CATIA上で複合材の定義をまとめ、それを構造チームと共有し、同一プラットフォーム上で部品のシミュレーションを実施したという。さらに、カーボンファイバーのような複合材の場合、どのように製造するかで剛性や強度などが変わってくるため、DELMIAを用いて製造用ロボットのシミュレーションなども実施。3DEXPERIENCEプラットフォームという単一の共通基盤を活用しながら、迅速な部品づくりを実現したとする。また、製造とともに重要なのが拡張性だとし、「将来の工場の在り方について戦略的パートナーであるトヨタ自動車と検討し、支援を受けながら、バーチャルツインによるプロセスの最適化にも取り組んでいる」(クラーク氏)という。
最後に、クラーク氏は「3DEXPERIENCEプラットフォームのような単一の共通基盤を持つことで、多様でつながりのあるチーム間でコミュニケーションを図りながら、現状を把握し、目指すべき姿に近づけていくことができる。技術や消費者行動が変化する中、『お客さまの時間を節約する』というわれわれの目標に一歩でも近づけるように、ビジネスモデルを構築し、さまざまな業界のキーパーソンとパートナーシップを結んでいく」と述べ、講演を締めくくった。
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