ダッソー・システムズでは2022年7月6〜26日まで、オンラインで年次カンファレンス「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2022」を開催した。本稿では基調講演の中から、大阪大学 基礎工学研究科 教授(栄誉教授)の石黒浩氏による講演「人とロボットと未来社会」の内容をお届けする。
ダッソー・システムズでは2022年7月6〜26日まで、オンラインで年次カンファレンス「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2022」を開催した。テーマを“SDGs時代のものづくり 〜バーチャルツインでつながる、持続可能なイノベーション”とし、基調講演に加えて約60ものセッションが開かれ、同社の取り組みや戦略、ユーザー事例紹介などが行われた。
本稿では基調講演の中から、大阪大学 基礎工学研究科 教授(栄誉教授)の石黒浩氏による講演「人とロボットと未来社会」の内容をお届けする。
石黒氏はこれまでに遠隔操作型アンドロイド「ジェミノイド」「テレノイド」、自律対話型アンドロイド「ERICA」、対話ロボット「CommU(コミュー)」などを開発し、日常生活の中で人間の活動をサポートするロボットの実現に取り組んできた。なぜいずれも人に近い形をしているのか。その理由を、石黒氏は「人間は人間を認識する脳を持っている。人間にとって最も関わりやすいインタフェースは、人間に似たロボットになる」と述べる。
さらに世界的に普及したインターネットの例などを挙げながら、「インターネットの使われ方を調べてみると、人間のさまざまな性質が分かる。知能や意識を持ったロボットができると、そのロボットを基に知能や意識とは何かなど人間の大事な性質が明らかになっていく。これがロボットの可能性だ」と語る。
石黒氏はテーマを人類の進化の歴史に移すと、進化をつかさどっているのは遺伝子と技術とし、「人間は技術によって能力を拡張できる。遺伝子の進化よりも技術による能力拡張の方がはるかに速い。ロケットに乗って月に行くことはできるが、遺伝子を改良して月に行けるのはいつの日になるか分からない」と話す。
1万年前に農耕を始めて以降、人間は加速度的に能力を拡張し、今ではインターネットやコンピュータなど、ありとあらゆる技術に支えられて生活している。各種のワクチンや人工心臓など、技術は体内にも及んでいる。さらに生命の限界を超えた進化を達成するには何が必要か。石黒氏は「人間の脳をコンピュータに置き換えること」という。
テスラのCEOを務めるイーロン・マスク氏が設立したニューラリンクでも、脳とコンピュータをつなぐブレインマシンインタフェース(BMI)が研究されている。
それらを踏まえて石黒氏は「人間の脳の機能を技術が置き換るのは遠い未来の話ではない。そうなれば、人間はほとんどの機能を技術によって置き換えて、ある意味、ロボットや無機物になるのではないか」という仮説を立てた。
ドイツのマルクス・レーム氏は、義足を持ちながら走り幅跳びで健常者の世界記録に迫るジャンプを見せている。義足や義手を使用していても、人間として社会に受け入れられている。「既に生身の体は人間の定義に必要な要件ではない。われわれ人間が生身の体を機械に置き換えていくというのは、そう間違っている話ではない」(石黒氏)。
45億年前に無機物の地球が誕生し、35億年前に生命が誕生した。石黒氏は生命そのものの歴史を振り返りながら、「複雑な分子構造を持つ有機物は環境適応性が高い。一方で、複雑な構造は壊れやすく永遠に維持できない。無機物の体なら環境適合性が高く宇宙空間でも生きられる。地球や太陽に異変が起きて有機物の生命が死に絶えても、無機物の体は永遠に生き残る可能性がある。無機物の知的生命は体の制約から解き放たれて、ありとあらゆるモノになることができる」と説く。
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