人とロボットが織りなす未来の社会とは 大阪大学教授 石黒浩氏が描く進化の姿3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2022(2/3 ページ)

» 2022年07月27日 13時00分 公開
[長沢正博MONOist]

人型アンドロイドの進化と限界

 石原氏らが2015年に発表した自律対話型アンドロイドのERICAは、女性の容姿を備えている。人と関係を構築したいという個人的欲求と、社会の中で人との関係性を明らかにしたいという社会的欲求が埋め込まれており、普段は京都府にある国際電気通信基礎技術研究所(ATR)のロビーに置かれ、来場者と簡単な対話をすることができる。

ERICAが実際に人と会話する模様[クリックで再生]

「ありとあらゆる場面で人と関われるロボットは当面実現できない。ただ、特定の場所と役割を与えて、丁寧にプログラムすれば人間らしく対話できるアンドロイドが実現できる」(石黒氏)。

 音声認識技術や眼球部分にカメラも導入されており、表情や話し方から相手の気分や自分に対する感情を識別、互いの関係性が良好ならさまざまな話題を投げかける。「ERICAは150通りの話題で話すことができる。初対面で150通りの話題が話せる人はなかなかいない」(石黒氏)。

 ただ、限界もある。成人の姿をしているため、人は大人並みの知能を持っていると期待するが、それはまだ不可能だ。そこで、見た目を子どもにすると状況は変わる。2018年に発表した子ども型アンドロイドの「Ibuki」は移動機能を持ち、人とともに行動することができる。「人は子供の姿、形に関して特別な感情を抱く。丁寧に対応してくれる。社会の中で多くの人と関わりながら情報を取り込み、自ら賢くなっていく」(石黒氏)。

大阪大学内を移動するIbukiの姿[クリックで再生]

自らの分身を使って新たな生き方を見つける

 石黒氏が今、力を入れているテーマは「アバター(自らの分身)共生社会」だ。1999年に石黒氏はテレビ会議システムと移動台車を組み合わせた遠隔操作ロボットを提案している。その後、2010年には米国のウィローガレージ(Willow Garage)がパーソナルロボット「PR2」を発売するなどしたが、アバターとして広まることはなかった。その理由を石黒氏は「リモートで働くということが受け入れられなかった」と話す。

 しかし、コロナ禍にあって在宅勤務やリモート会議が一気に普及した。「リモートに慣れて、利便性も感じている。もう完全になくなることはない。その利便性を生かしながら新たな働き方が実現されていく」(石黒氏)。

 内閣府では、日本発の破壊的イノベーションの創出を目的にムーンショット型研究開発制度を進めている。その目標の1つ目に「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」があり、その中で「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」において石黒氏がプロジェクトマネジャーを務めている。「コロナ禍が来る前にこの目標が立てられた。使命感も感じながら進めている」(石黒氏)。

 目指すのは、高齢者や障がい者を含む誰もが多数のアバターを用いて、身体的、認知、知覚能力を拡張しながら、常人を超えた能力でさまざまな活動に参加できるようになる社会だ。そこではいつでもどこでも仕事や学習ができ、通勤通学を最小限にして自由な時間が十分に取れるようになる。例えば教育では、教師ロボットや教師のアバターを活用して、学習内容や一人一人のペースに合った指導を行う。

 石黒氏はアバターとして遠隔操作ロボットを使った保育園やスーパーマーケット、アミューズメント施設での実証実験に触れる中で、自身もパン屋で販売を行ったと明かし、「私の姿でパンを売るのは不可能に近い。子供が怖がる。しかし、ロボットを操作して、声も変えるとパンを販売できる。今回、人生で初めてパンを売ることができた。アバターを使えば新しい自分の生き方、働き方が実現できる」と語る。

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