そういうアバターが作る世界を石黒氏は「仮想化実世界」と呼んでいる。実世界において生身の体で働いていると、失敗したときに取り返しがつかなくなる可能性がある。一方、インターネットの仮想世界では、失敗しても別のアカウントを作ってやり直すことができる。
ただし、多くの経済活動は実世界で行われている。「実世界と仮想世界のメリットを融合できないかと考えたのが仮想化実世界。実世界で働きながら、アバターを使って匿名性を持たせ、いろんな自分で働けるようにする」(石黒氏)。
倫理的な懸念も考えられるが、石黒氏は「まずは市場を作ること。市場ができる前に、まだ見ぬ世界の倫理問題を考えて抑制することは決してやってはいけない。今の価値観で未来を制約すれば何も生まれない」と力を込める。
石黒氏は、仮想化実世界が日本で作り出せる可能性が高いという。なぜなら、日本はアバターに必要なロボット技術やCGのキャラクター制作に強いからだ。「日本から新しい世界を作りたい」(石黒氏)。2021年にCGのアバターを作るAVITAを設立、代表取締役CEOに就任し、アバターの社会実装に自ら取り組んでいる。
「PCやスマートフォンでCGのアバターを使って働ける環境を作り、普及したら付加価値が高いものはロボットに置き換える。アバターで人の可能性を広げる社会を多くの企業と一緒に実現できればうれしい」(石黒氏)
石黒氏は2025年に大阪府の夢洲で開催される大阪・関西万博において、テーマ「いのちを拡げる」のプロデューサーに就いている。「50年先にわれわれ人間はどれほど進化しているのかを皆さんと共有したい」(石黒氏)。アバターの技術もふんだんに使う予定で、「コロナ禍後の国際イベントの在り方を示したい。誰もが自由に参加できる万博にすることが重要だ」。
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