成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。第19回では、最近注目されているカーボンニュートラルとスマートファクトリーの関係性について解説します。
スマートファクトリー化は製造業にとって推進すべき大きなテーマであるにもかかわらず、なかなか成果が出ない課題を抱えています。本連載では、スマートファクトリーでなかなか成果が出ないために活動を縮小する動きに危機感を持ち、より多くの製造業が成果を得られるように、考え方を整理し分かりやすく紹介しています。第16〜18回では主にスマート工場化を推進する組織や人事を中心に話をしてきましたが、第19回となる今回は、最近注目されている製造業のカーボンニュートラルとスマートファクトリーがどのように関係するのかについて解説します。
本連載は「いまさら聞けないスマートファクトリー」とし、スマートファクトリーで成果がなかなか出ない要因を解き明かし、少しでも多くの製造業がスマートファクトリー化で成果が出せるように、考え方や情報を整理してお伝えする場としたいと考えています。単純に解説するだけでは退屈ですので、架空のメーカー担当者を用意し、具体的なエピソードを通じてご紹介します。
従業員300人規模の部品メーカー「グーチョキパーツ」の生産技術部長である矢面辰二郎氏はある日、社長から「第4次産業革命を進める」と指示され途方に暮れます。そこで、第4次産業革命研究家の印出鳥代氏に話を聞きに訪問し、さまざまな課題に立ち向かいます。
矢面 辰二郎(やおもて たつじろう)
自動車部品や機械用部品を製造する部品メーカー「グーチョキパーツ」の生産技術部長兼IoTビジネス推進室室長。ある日社長から「君、うちも第4次産業革命をやらんといかん」と言われたことから、どっぷりのめり込む。最近閉塞感にさいなまれている。
印出 鳥代(いんだす とりよ)
ドイツのインダストリー4.0などを中心に第4次産業革命をさまざまな面で研究するドイツ出身の研究者。インダストリー4.0などを中心に製造業のデジタル化についてのさまざまな疑問に答えてくれる。サバサバした性格。
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
さて、前回のおさらいです。第18回の「スマート工場化の推進主体は『経営』なのか、それとも『現場』なのか」では、スマートファクトリーを推進する中でよく課題として挙げられる「推進主体は誰か」という点について取り上げました。
設計や製造、調達などのモノづくりの各部門が関わる必要のあるスマートファクトリー化は、組織間の調整が必要になるため「これらを推進する主体がどこか」ということがよく問題として挙げられます。さらに、組織間をまたがるという意味で経営層の参画が望ましい一方で、経営層では工場の現場でどういう価値を生み出すべきかということは把握していない場合がほとんどです。一方で、現場側では組織全体の価値は考えることが難しく、部分最適に落ち着いてしまいます。
こうした中でどのような推進主体が取り組みを牽引(けんいん)するべきなのでしょうか。印出さんは最終的には経営陣が主導すべきだとしていましたが、それだけでは不十分だと指摘しています。
先にゴールを言えば、企業の運営の責任を経営陣が取るという前提に立つとすると、最終的には「経営陣が主体となる」ということが求められるわね。同じ目標の元、経営陣とあらゆる部門の主導者が一体となって進めるのが理想の姿よ。ただ、スマートファクトリー化で難しいのは、そこに至るまでの道筋が多岐にわたるということだと思うの。
そして、精神論かもしれませんが、そうした理想的な形に持っていくためには「最も危機意識が高い人」がそこまではけん引する必要があるとしています。
経営者や現場というような役職は関係ないのですか。
そうね。経営者が危機感が高ければ、現場にヒアリングして巻き込んだ組織を作るかもしれないし、現場側が強ければ、他社の事例や自社での実証などの成果を基に経営陣に働きかけるかもしれないし、そのやり方は前回や前々回で紹介したようにいろいろあると思うの。ただ、一番大事なのはさまざまな障壁のある中でやり抜く危機意識や情熱のようなものだと思うわ。精神論かもしれないけど。
最終的にスマートファクトリーによる価値を企業全体としての価値につなげていくためには、経営陣の参画は欠かせません。しかし、経営陣は現場のモノづくりに疎い場合もあり、そうした危機感が生まれにくいこともあり得ます。そういう場合は、現場サイドからも実証の成果を示しつつ、社内で巻き込む活動が必要になってくるのだと考えます。
さて今回はここまでの話と少し方向性を変えて、最近注目されている製造業のカーボンニュートラル化が、スマートファクトリーとどう関係するのかについて、解説していきます。
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